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「江戸城無血開城」という神話 (読後ノート その3)

突然ですが、今年の大河ドラマと言えば西郷隆盛の物語「西郷どん」ですね。

私もご多分に漏れず幕末ファンですので、幕末物のドラマはわくわくします。ちなみに幕末の中でも新撰組好きで、推しメンは副長の土方歳三です!

 

さて、幕末の物語にはいくつも「これぞ幕末の真骨頂!」という名シーンがありますが(「真骨頂って普通一回しかないんじゃ・・・」というツッコミはなしで)、その内の一つがやはり「江戸城無血開城」でしょう。

 

多分、幕末好きじゃない方でも薄っすら聞いたことはあると思いますが、西郷隆盛率いる官軍が江戸まで押し寄せ幕府軍と対峙。すわ頂上決戦か?という極限の緊張状態の中、幕府側の要人勝海舟西郷隆盛が会談。戦をすることなく江戸城を開城することで合意し、江戸に暮らす100万人の血を流すことなく、江戸城を新政府へと引き渡した出来事です。

 

世界の歴史でも、このように時の政権が戦なしに居城を引き渡すといったことは類を見ません。

 

これを成し得たのは、西郷や勝が幕府とか新政府とかいった勢力争いで国が疲弊していたら、諸外国にその隙をつかれ日本自体が植民地となってしまうという危機感を持っていたこと。そして近代日本という日本の未来の姿をお互いが描いていたからだと、歴史的には言われることがほとんどです。

 

いや、実際それはそうだと思いますよ。

私のような幕末好きにとっては、そのような高邁な日本人の姿に畏敬の念を抱かざるを得ない訳です。

 

だが、しかし。

ところがどっこい。

それに待ったを掛けるのが今回の読後ノートのテーマ「経済改革としての明治維新」です。

 

長い! 前置きが長すぎる!!すみません・・・。

 

この本では江戸城無血開城について、次のように述べます。

「実は官軍は経済的理由から江戸を攻撃できなかったのである。攻撃したくても、そのための軍資金がなかったのだ」と。

 

江戸城には165kgの金塊があると目されており、官軍もそれをあてにしていたのだが、いざ入城してみるともぬけの殻。実際幕府も当時は財政難の絶頂期でそんな金を置いておけるような余裕はなかったとのこと。

※実は勝が密かに隠しており、明治になってから旧幕臣たちに割り振ったらしいですが・・・恐るべし勝海舟

 

しかし、実際それをあてにしていた官軍は大混乱。

仕方なく官軍に加わっていた諸藩は偽金作りに励むようになり、それが明治初期の混乱に拍車をかけるようになったのです。

 

勿論、筆者はだからと言って江戸城無血開城の価値を貶めるような書き方は全くしていません。単純に事実としてそれを述べているので、真意を取り違えないように注意が必要です。

 

とは言え、この本ではこのように幕末、明治初期における日本国内の懐事情を解説し、それが日本という国の方針にどのように影響を与えたのか。

廃藩置県、地租改正、四民平等など私達が学校で習った「歴史上の出来事」にどんな意味があったのかを、経済的側面から冷静に解説を加えてくれています。

 

とかく幕末、明治維新というと様々な英雄たちが命を懸けて日本という国の未来のために戦った英雄譚的な側面が取り沙汰されることが多いです。特に、現在のように”閉塞感が蔓延した時代”であればあるほど、とかく「維新」「改革」といった何となく突破力を感じさせてくれるような魅惑的な抽象的フレーズが多くの人を惹きつけます。

 

しかし、それがどれだけ崇高な志であっても、残念ながらお金が動かなければ人が動かないこともまた事実です。お金の動きを考えることなしに、歴史を語ることはできません。

 

明治維新によって日本は近代化した」という、ある種単純化された成功体験を刷り込まれている現代の我々は、ついついその良い所ばかりを見てしまいます。しかし、その裏にはそんな単純な言葉ではまとめきることのできない、光と闇が複雑に入り組んだ物語があるはずです。

この本はそのような単純化された明治維新というストーリーから、良い意味で距離をおき、明治維新とは何だったのかをもう一度冷静に問い直すきっかけになる本ではないかと思いました。

 

 

 以上がこの本のレビューになりますが、以下ちょっと気になったことをメモ的に書き込みます。

私の中でこの本で一番得心したのは最終章の「松方正義が完成させた金融システム」です。

ここ数年、私がずっと疑問に感じていることの一つが

 

「なぜ財務省はこれほどまでに緊縮財政にこだわるのか」

 

です。

 

現在の財務官僚だけを対象とすれば、「財務省は大蔵省時代からずっと”省是”として緊縮財政を掲げているから、緊縮財政を行うことが出世への道だから」という理由になってしまいます。

それは分かります。良いか悪いかは別にして、ですが。

ただ、「じゃあ、どうしても財務省は緊縮財政が省是なの?」という疑念がずっと引っかかっていました。

 

それがこの章を読んで少し理解できた気がします。完全に納得できた訳ではないですが、ちょっと靄の先が見えたかなと。

 

それは、日本銀行創始者であり、明治初期の大蔵卿である松方正義

 

1. 当時の政策として徹底した緊縮財政を敷いたこと

2. その当時の状況においてはそれが正解であり、結果的に日本の窮地を救ったこと

3. 松方が緊縮財政を敷くにあたり「様々なところから異論が噴出するだろうが、それは全て無視して緊縮財政を強行することが不可欠だ」と政権の中枢人物に説いて周り、実際それが成功したこと

 

という成功体験を大蔵省に経験させてしまったことが、根本原因の一つではないかと。

確かに松方の時代は「インフレ期」「輸入超過による金の流出問題」「金が通貨の信用の担保だった」「世界的に金本位制だった」など、緊縮財政の採用が正しい時期だったのは間違いないと思います。

でも、それはあくまで"その当時はそれが正解だった"というだけで、現代は全く状況が違います。むしろ上記の状況とは真逆の環境なのが現代。ならば、処方箋もその逆になるのが正しいはずですが、財務省は松方時代の手法をほぼそのまま踏襲している状態です。

なぜなら「省是に沿った施策を考え実行するのが出世の道だから」。

 

というストーリーが見えて来ました。

それが真実かは分かりませんが、現時点での個人的仮説として記録しておきます。これからも色々勉強して、自分なりに検証していきたいと思います。

 

 

 

 

 

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