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ユーロとEUの間で分断されるイタリア

日本の一部報道でも伝えられていますが、イタリアの政局が重大な局面を迎えつつあるようです。

イタリアのマッタレッラ大統領は26日、大衆迎合主義(ポピュリズム)政党「五つ星運動」と極右「同盟」が推した首相候補ジュゼッペ・コンデ氏から提出された組閣名簿のうち、経済財務相にユーロ懐疑派のサボーナ元工業・民営化相を指名するのを拒否し、コンデ氏は組閣作業を断念した。

選挙で国民によって選ばれた政党が行う組閣を、経済財務相がユーロ懐疑派ということで大統領が拒否したとこのと。

 

私はイタリアの政治制度に詳しい訳ではありませんので、このような大統領の拒否権が歴史的にどのような意味合いで制度化されているのかは分かりません。しかし、イタリア国民による正当な選挙で選ばれた政党が行った組閣を大統領が拒否するというのは、民主主義の否定ではないのかと思ってしまいます。

 

いずれにせよ、今回の大統領の組閣拒否を受けてイタリアでは再度総選挙が行われるようです。そして、奇しくも今回の大統領の決断によって、その再選挙の争点が「ユーロ加盟問題についての是非」を問うことになりそうだとのこと。

 

共通通貨ユーロとEUという共同体

私はこのユーロ加盟問題について考える時には、「ユーロ」の話と「EUという共同体」の話はある程度分けて考える必要があると思っています(完全に分離は無理ですが)。

 

元々EUの前身であるEC(ヨーロッパ共同体)が作られる目的の一つが、戦後アメリカや日本に対して相対的に市場規模が落ちて来て「欧州の凋落」が叫ばれた中で、欧州という一つの経済圏を作り上げ、アメリカや日本に対抗するというものでした。その経済政策的な意味合いで欧州が合同したのは基本的に正しい選択だったと思います。

 

ただ、問題はそこに「ユーロ」という単一通貨を持ち込んだことです。

私はこれが決定的な失敗だったと思います。

自国で通貨発行ができないという経済的な自主権の喪失を甘く観ていた、と言っても良いかもしれません。

当初は通貨が同じになることで調達資金が相当に安くなり、特に南欧には莫大な投資が舞い込みバブルが発生。空前の好景気がヨーロッパに訪れました。しかし、うまく行っていたのもつかの間、2008年のリーマンショック以降複雑に入り組んだ不良債権が拡散。

ギリシャとは違い健全だったイタリア国債さえも「実は危ないのではないか・・・」という信用不安のために、一気に資金が引き上げられ急激な金利上昇を招くことになりました。

※実際にはイタリア国債サブプライムのがらくた証券を買い求めておらず、イタリアの銀行は安定していた。

 

もしユーロを導入さえしていなければ・・・

本当に「とばっちり」という意味ではイタリアは好例なのですが、自分たちの実力とは全く別のところで大量の負債を抱え込むことになってしまったのです。

 

これが統一通貨でなく、自国の中央銀行で通貨が発行できる権限があれば、中央銀行にすべての負債を引き取らせることで、その負債を帳消しにすることができたのです。

また、為替による防衛で、経済力が欧州の中でも飛び抜けて高いドイツとガチンコで戦うことになることもなかったのです。

しかし、統一通貨の導入によりドイツ経済と真正面からまともに戦わなくてはならなくなりました。しかも、自国で通貨が発行できないことによって、経済力を強化し立て直すための資金を諸外国から借りなければならないという事態。財布を完全にEUという組織に握られてしまった訳です。

 

その苦しさを言い当てているのが、引用記事にある

ポリシーソナールのガリエッティ氏は「平均的な有権者は恐らく反既成政治勢力に心情的には喝采を送る。ただし財布からは、その反対の声が発せられる」と説明し、再選挙は「心情と財布の綱引き」になると予想している。

という一文です。

自分たちの国を立て直すための政策を打ち出したいが、そのために必要なお金すら自分たちの自由にはできない。そんなおよそ独立した国だとは思えない不自由さにイタリアは追い込まれているのです。

仮にユーロから離脱するという選択肢を選んだとしても、イギリスのブレグジットに見るようにその道は相当な茨の道になります。

 

果たしてイタリア国民が再選挙までの間にどのような議論を重ね、どのような結論を出すのか。

 

どのような結果になるのかは分かりません。

ですが、あれだけの世界に誇る歴史や文化を持った国ですから、イタリア国民自身が将来「あの選択は間違ってなかった」と思えるような未来につながることを祈ります。

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