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主流派経済学を“経済学の歴史”というアプローチで全力でフルボッコにする本「はじめての経済思想史」

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突然ですがみなさんに質問です。

お金儲けは良いことでしょうか? それとも悪いことでしょうか?

 

うーん。中々難しい質問ですね。

当然生活していくためにはそれなりにお金がなくてはなりません。ですので、お金を儲けること自体は悪いことではないと思われます。ですが、あまり極端にお金に執着し、人を騙したりしてお金を不当に得るところまで行けば、道徳的な意味で悪いことだと思われるでしょう。

 

実はこの問いかけは「経済学というのは何のためにあるのか?」という問いと非常に深い関係を持っています。というか、経済学とはある意味その問いに答えるためのものであると言っても過言ではありません。

そのような「良いお金儲けを促進し、悪いお金儲けをできるだけ抑制することで、社会を豊かにしようとする学問、それが経済学である」という切り口で、経済学の歴史を読み解いていくのが、今回取り上げる

 

中村隆之著「はじめての経済思想史 -アダム・スミスから現代までー」

 

という本です。

 

一般的に何かの学問の歴史を取り上げた本というと、大体有名な学説を細かく説明するような難解な本になりがちですが、この本は経済学の歴史の主題を「良いお金儲けを促進するための方法」(お金儲けの方法、ではないのでご注意を)と捉えて、それが歴史の中でどのように変わってきたかを考えていくというアプローチをとっています。

そして、その主題に対して歴史的に超有名な経済学者がどのように取り組んできたか? を一人ずつフォーカスをあてて考えて行きます。

 

全編を通して一つの主題に沿って書かれているので、ある意味ストーリー仕立てのような感じになっており、経済に不慣れな人でもとても読みやすいものになっています。

取り上げる経済学者は、アダム・スミスジョン・スチュアート・ミル、マーシャル、ケインズマルクス、そして、ハイエクフリードマン

多分、名前くらいは皆さん聞いたことがあるのではないかと思います。

 

それぞれの経済学者に対し、著者は敬意をもってその理論を取り上げ説明を行っていきます。平易な文章で、それぞれの理論の良い点、悪い点を時代背景との関係を重視しながら丁寧に説明されます。

経済学に不慣れな人にも分かりやすい表現で書かれていますので、そういった方が経済学というものが人間社会に及ぼした影響をちょっと知りたいと思ったら、ぜひお勧めしたいと思います。

 

この本のハイライトは第四章にあり

・・・と、ここまでで終われば「読書レビュー」としては及第点なのでしょうが(笑)、私のレビューはそれでは終わりませんww

私の経済学に対する考え方がそうさせるのかもしれませんが、この本の第四章だけは大分温度感が違うなと感じました。

ここではミルトン・フリードマンというノーベル経済学者の「市場主義」という考え方が取り上げられるのですが、他の方への批評とは打って変わって激烈に批判しています。

 

イントロ部分をちょっと紹介しますと・・・

 

現実の政治を動かそうとするとき、思想は単純化される。(中略)政府が介入することで世の中を良くしようという考えを倒すために、政府のやることは悪、市場のやることは前という単純な主張が展開される。私はこのフリードマンの単純な主張を「市場主義」と呼ぶ。

市場主義は、はっきり言って薄っぺらい思想である。(中略)じつのところかなり内容がない。

 

現実を動かしたければ、こうした思想の単純化が必要なのかもしれない。けれども

「市場主義」は、本書でくりかえし指摘した経済学の歴史が持つ方向性を見えなくさせるという意味で、きわめて危険な思想である。

 

どうでしょうか。

インターネットや週刊誌ならまだしも、自分の書籍でここまでこっぴどく批判することはあまりないと思います。

ま、私も完全同意なんですけどねwww

 

問題は市場主義が現実社会に影響を及ぼしているということ

ただ、問題は市場主義の薄っぺらい思想そのものにあるのではありません。そのような主義主張を個人が行うだけであれば、別に構わないのです。ですが、問題なのはその薄っぺらい思想が現実の社会に巨大な影響を及ぼしているという点です。

市場主義の主張は

 

「経済というのは放っておいても、理性的な人間が理性的な判断の元に資源をほぼ完全に利用する状態に均衡するため、政府などが介入せず自由にさせておくことが一番である。むしろ、政府の介入こそが諸悪の根源である」

 

というようなものです。いわば、市場は絶対的に正しく、政府は絶対的に悪であるというような主張です。

普通に考えればこんなものは単なる個人の主義主張であり、経済理論ではありません。ですが、アメリカでは1980年代以降、日本では1990年代以降、政府の政治的な意思決定の遅さや、政府と企業の癒着という政府が介入することによる悪い点に必要以上にフォーカスが当たってしまったため、そのような極端な市場主義が実際に社会への影響力を持ってしまうことになったのです。

 

たとえば、ちょっとテクニカルな話になりますが、この市場主義をベースにした「主流派経済学派」が構築した理論モデルに、一般均衡理論というものがあります。しかし、何とこの理論は「貨幣(お金)」の存在を想定していません。経済学というのがお金を扱う理論だと思い込んでいる人たちには信じられないと思いますが、それが事実なのです。(ここでは詳細は割愛します。かなりややこしい話になるので。)

 

にも関わらず、そのような「主流派」の経済学的理論が現実に経済政策に影響を及ぼし、その結果2008年のリーマンショックとそれ以降続く金融危機を引き起こしたというのが現実なのです。

 

普段経済学に接していない人たちは、どうしても経済学をすごく難しい、高度な研究を重ねている学問だと思っています。だからこそ経済学者がそのような経済学的な観点から政策を提言したりしているのを見て、「よく分からないけど、偉い経済学者さんが言ってるんだからそうなんだろう」と思ってしまいます。

ですが、現実はそうではないのです。

経済学というのはどういう道を辿ってきた学問であり、現状の経済学の状態とはどのようなものなのか。それをしっかり理解することで、現実の世界の在り方と本来あるべき姿とがよりハッキリと見えてくるのではないでしょうか。

 

その意味でも、このような経済学の歴史に関する分かりやすく、面白い本が出たことは、この世の中にとっても非常に良いことなのではないかと思うのです。

 

今回も長文を最後までお読み頂きありがとうございました😆

 

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