世界を救う読書

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インスタ映えで衰える日本の桜

早いもので2019年が始まってもうすぐ3ヶ月が経とうとしています。それはつまり平成という時代があと1カ月ほどに迫ったということでもあります。
そしてもう一つ、3月下旬と言えば、そう!桜の季節です。
これらを合わせると「平成最後の桜」の時期だということになります!(笑)

東京ウォーカーとかの地域情報誌はもちろん、テレビでも桜の見所特集でどこもかしこも大騒ぎです。みなさん、今年はどこで桜を見る予定ですか?

さて、そんな日本人大好きな桜の花見ですが、ここ数年はだいぶ趣きが変わってきたように感じるのは私だけでしょうか?


インスタ映えするアイテムとしての花見

ここ数年の桜の情報と言えば、満開に咲き誇った桜を見るには、いつどこに行けば良いか?で持ちきりです。どこの桜がどれだけ綺麗で、何本の桜があるか、夜桜のライトアップがあるかないかなど、いかに「豪華な桜のが観られるか?」の話題に終始していることがほとんど。

情報誌にしろテレビにしろ、どれだけ立派な枝振りか、いつ満開か、にばかりフォーカスが当てられ、「豪華絢爛な桜」の写真がこれでもかとフィーチャーされています。

確かに満開の桜を見るのは気持ちが良いです。それも数が多くなればなるほど、豪華さは増します。正に"インスタ映え"ですね!

 

でも、実はこれは最近の傾向で少し前までは、”美しくも儚く散る桜”として見ていたように思うのです。

 

儚く消えるものこそ美しいという日本の美学

例えば、日本の古典の「伊勢物語」で在原業平が詠んだ有名な歌があります。

 
世の中に たえて桜のなかりせば 春の心はのどけからまし

(訳)世の中に桜と云うものがなかったなら、春になっても、咲くのを待ちどおしがったり、散るのを惜しんだりすることもなく、のんびりした気持ちでいられるだろうに。

 

この歌には次のような有名な反歌があります。

 

散ればこそ いとど桜はめでたけれ 憂き世になにか久しかるべき

(訳) 桜は惜しまれて散るからこそ素晴らしいのだ。世に永遠なるものは何もない。

 

日本は古代から災害の多い国だったため、人も物もあらゆる物がいずれこの世から消え去ってしまう。そこに世の無情を感じつつも、この歌のやり取りに見えるような”いずれ消え去るからこそ美しい”という儚さの美学を尊ぶ感覚が養われて来ました。

 

日本語の「桜」と、英語の「Cherry blossom」は別物

しかし、ここ数年の桜の取り上げられ方は、そのような日本の美学としての美しさとはまるで真逆の「見た目の派手さ」のように思われます。何か物事の背景や歴史などに目を向けることなく、即物的で刹那的な美しさにだけフォーカスすることは日本人から文化的な感覚が失われている表れのように思えるのです。

 

黒川伊保子さんという方が書かれた「日本語はなぜ美しいのか」という本があるのですが、この本では日本語の母音や子音が作り出す空気の流れによって生まれる日本語が持つ言葉の響きの美しさを解説していらっしゃいます。その中にこのような一説があります。

 

語感はまた、ものの見方や、ことの捉え方にも影響している。

サクラSaKuRaは、息を舌の上にすべらせ、口元に風を作り出すSa、何かが1点で止まったイメージのKu、花びらのように舌をひるがえすRaで構成された語である。つまり、語感的には、風に散る瞬間の花の象(しょう)を表す名称なのだ。

あの花を「サクラ」と呼ぶ私たち日本人は、散り際を最も愛する。桜の枝に風が吹き抜け、はらりと花弁がひるがえったとき、私たちは、その花びらを目で追わずにはいられなくなる。

 

そして、その一方で英語のCherry blossomの語感は豪華絢爛で賑やかな響きを持ち、豊満な枝振りが、累々と重なるイメージであり、「風のドラマ」が一切ないため、日本語の「サクラ」とは全く違うものだと述べています。

 

私はこの話を読んだときに、なぜ日本人が桜に特別な感情を抱くのかが少しわかったような気がしました。単純な見た目の美しさだけではなく、それが散る、”儚さの美学”を日本人は「サクラ」という言葉そのものに込めているのだと。だからこそ、桜を見た時に美しさを感じると共に、少しだけ寂しいような切ないような不思議な感覚を覚えるのだと。

 

テレビや雑誌で取り上げられる豪華絢爛な桜。

その美しさのインスタ映えを狙ってスマホで自撮りをする若者たち。

 

それが全く駄目だというつもりはありませんが、桜そして「サクラ」という存在に古くから日本人が抱いてきた美学をほんの少し思い出してみるだけで、今年の桜はいつもと違う姿で見えてくるのではないでしょうか。

 

 今回も長文を最後までお読み頂きありがとうございました😆

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