世界を救う読書

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日本の生産性が上がらない理由とは何か?

先日発表された2019年版の経済財政白書について、昨日下記のような投稿をしました。 

  そこでも書きましたが、今年の経済白書についてメディアの報道では

 

「この白書では『日本の労働生産性を高めるには働き手の多様化が必要。そして、それを実現するには日本的慣行の見直しが必要』と結論づけている」

 

ということになっています。

「働き手の多様化」という抽象的な言葉でぼやかしていますが、要するに外国人労働者の受け入れを増やせということです。

 

でも、実際に白書を読むとちょっとそういう結論には無理があるんじゃないかと思ってしまうのです。

というのが、この白書には

 

「働き手の多様化による影響はプラスとマイナスがあり、どちらの影響が大きいかは一概にはいえない」

 

「海外の研究によると働き手の多様化による効果は

プラスが20%

マイナスが20%

どちらとも言えないが60%

だった。」

 

と書いてあるからです。

そんなやっても効果があるかどうか不明なものに対して、「日本的雇用慣行を見直してでも取り組むべし」というのは、どう考えてもおかしいと私は思うのです。

 

では、人手不足に対応するための生産性向上の実現には何が必要なのか?

それも実はこの白書に書いてあるのです。

 

生産性向上に必要なものは資本装備率

実はそのような成果もよく見込めないような「働き手の多様性向上」の前に、より確実に生産性を向上させられる要素があります。

それが「資本装備率の向上」です。「積極的な設備投資を奨励する」と言っても良いでしょう。

実際に白書の中にはこういう記述があります。

 

労働生産性の上昇率は、労働者1人当たりどれぐらいの資本ストックが割り当てられているかを示す指標である資本装備率による寄与と、資本や労働の投入量だけでは説明できない広義の技術革新等を示す指標である全要素生産性による寄与に要因分解することができます。

この要因分解によると、2010年代の労働生産性の伸び悩みの要因として、日本では資本装備率の寄与の低下が大きく、英国やアメリカでは、全要素生産性の寄与の低下が相対的に大きいことがわかります。

 

ちょっと難しい言葉で説明してありますが、簡単に言うと生産性を向上させるには大きく2つの要素があり、それは

 

1) 資本装備率

2) 全要素生産性 (TFP)

 

です。

で、日本の場合はこの「資本装備率」というのが影響が少ない傾向があるということです。

 

「資本」というとお金のことかと思われるかもしれませんが、そういうわけではありません。

お金ではなくて、機械やインフラ設備など生産に必要な設備がどれだけ充実しているかを数値化したものです。

平たく言えばパソコンの普及率とか、Webサイトを作るためのインフラ設備がしっかりしているかとか、あるいは建設工事に必要な機材が十分揃っているかとか、そういうものです。

 

全要素生産性(TFP)は解釈次第で何とでも言える都合の良い要素

ではもうひとつの全要素生産性(TFP)とはなんでしょうか?

これは簡単に言うと「生産性を高めるのに影響を与える要素のうち、資本装備率を除いたもの」と考えて頂ければ、ほぼほぼ正しいです。

たとえば、技術革新とか、好景気/不景気、あるいは組織の体制とか、とにかくお金の投資とか、労働力の投資とか、設備投資とかで表現できない・・・いわば「その他すべて」って感じですかね。

乱暴に言ってしまうと、「生産性は向上したけど、資本装備率じゃ全部説明できないな。ま、いいや、後は全部TFPによる効果にしとけ」って感じです(笑)。

 

当然、技術革新のようなプラスに働くものだけでなく、事故や異常気象、経済危機などといった経済にマイナスになることもあるので、まさに“予測不可能な要素”と言えるでしょう。

 

そして経済白書によると、日本の生産性向上に寄与している要素がこのTFPの割合が高まっているようなのです。

各国との比較がこちらです。

 

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*1

 

確かにこのグラフを見ると他の先進国に比べて日本は「資本装備」よりも、TFPによる影響が大きいのが分かります。

・・・ん?

っていうか、よく見ると2010年代では「資本装備」による影響がゼロになっていて、TFPによる影響しかないようですね・・・。

これってつまり日本の生産性はTFPという「数値化できないよく分からない要素」だけで伸びているってことじゃないですか??

 

資本装備率が落ちてるのに生産性向上は不可能

という訳で、TFPではなく資本装備率の状況を見てみると意外なことが分かります。

このグラフは中小企業庁のHPに掲載されていた数値から作りました。

横軸が年度。

縦軸が資本装備率(資本装備(万円)/従業者数 (人))。

青が製造業、オレンジが非製造業です。

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製造業と非製造業で若干ズレがありますが、どちらもほぼ2000年代に入ってから、ガクッと落ちています。

それだけ企業の設備投資が2000年代以降一気に減少しているということです。

これだけ設備投資が伸びていなければ、そりゃ生産性の向上なんて無理ですよ(笑)。

 

設備投資を行えば生産性は向上できる

例えば私は仕事で自社商品の撮影を行っています。

撮影スタジオは会社から遠い場所(車で1時間)にありますので、撮影のためには商品をスタジオまで移動させなくてはなりません。

仮にそこで私が“商品を手で持って歩いて移動させる”としましょう。車で一時間ですから、そんなことやっていたら10個、20個の商品を撮るのに何日かかることでしょう。気が遠くなります。

 

ですが、トラックを購入して20個の商品を一度に、一時間で運べるようにしたとしたらどうでしょうか?

「労働集約的」だった時に比べて、数十倍の速さで撮影することが可能になります。もちろん、それによって浮いた時間で別のサービスを行い収益を上げることが可能になります。この「トラック購入」が設備投資です。

そして、明らかに資本集約的の場合の方が、圧倒的に生産性を上げることが可能になります。「撮影」というサービスの質も向上しますし、このWebショップ最強の世の中においては、より多くの写真を提供できることで収益も飛躍的に高まるでしょう。

 

何も難しい話ではありません。

ごくごく当たり前の話です。

 

 

働き手の多様化の前に資本装備率を高めさせろ

資本装備率と労働生産性については、経済白書でも次のように指摘しています。

 

「人手不足感がある企業は適正である企業に比べて資本装備率が約4割低くなっており、人手不足感がある企業においては、資本投入の絶対量が少ないために従業員一人当たりの労働生産性の水準が低くなっていると考えられる。

こうしたことを踏まえると、人手不足感のある企業にとって労働生産性を高めるためには、必要な人員を確保し適切な人員配置を行うとともに、必要な設備投資を行い、資本装備率を高め効率的に経済活動を行える環境を整備することが重要である。また、新たな装備を労働者が使いこなせるように人材育成を進めていくことも必要である。」

 

 

つまり、労働生産性の向上のためには資本装備率を引き上げることが重要であると認識しているわけです。

・・・・だったらさ、自分たちで「効果がプラスかマイナスかよく分からない」と書いている「働き手の多様性を高める」よりも、企業が設備投資を行うような政策を行うのが筋なんじゃないの?

 

経済白書が提言する抽象的な「働き手の多様性」よりも、そちらの方がより確実に労働生産性を高められるのではないかと思うのは、私の性格が悪いせいでしょうか? (笑)

 

 

今回も長文を最後までお読み頂きありがとうございました😆 

*1:令和元年度 年次経済財政報告 「第1章 日本経済の現状と課題」より抜粋

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