実はEUを離脱した英国よりも欧州の方が問題山積みだということ。
2020年1月31日。遂に英国がEUから離脱しました。
多くのメディアが「全米が泣いた!」・・・もとい(笑)、「世界秩序の終焉! 混乱の世界が待っている!」みたいなヒステリックな報道がされています。正直、こういう報道を見ると日本のメディアはやっぱりナイーブ (幼稚)だなという感想を抱きます。少なくとも私は英国のEU離脱は「英国がEUに加盟した時からの既定路線だった」と考えています。少なくとも選択肢の一つとしては十分想定できたと。
なぜそのように考えるのか。そしてこれから注目していくべきことについて考えてみたいと思います。
[目次]
なぜ英国は離脱したのか
最初に書いたように、日本の報道では英国のEU離脱は
「世界に逆行する動き」
「欧州統合という平和への夢が閉ざされた」
みたいな流れで報道されています。
例えば2月1日付けの日経新聞では「二度にわたる世界大戦を経た不戦の近いから出発して拡大を続けてきた欧州統合は、初めて加盟国を失う歴史的な転換点を迎えた。」と書かれていますが、このスタートの時点ですでに間違っています。
確かに世界大戦で膨大な被害が出たために、このような戦争を繰り返してはならないという思いがあったことは事実でしょう。しかし、それは「みんな戦争するのをやめようね」という子供っぽい理想主義的な“不戦の誓い”ではありません。そうではなく、「戦争を引き起こした原因を潰して、安定した世界秩序を構築する」という意味だったと考えるべきです。
EUの原点はドイツの封じ込め
そもそもEU (欧州連合)というのはその前身がEC (欧州共同体)という諸国連合でした。そのEC自体の発端となったのは1952年に設立されたECSC (欧州石炭鉄鋼共同体)です。多分学校の教科書で「なんか聞いたな〜」という記憶がある方もいらっしゃると思います。ですが、「世界大戦を経た不戦の誓い」というのだったらなぜ石炭と鉄鋼の共同体なのでしょうか?
よく分かりませんよね? なんで石炭? なんで鉄鋼?
これは元々第二次世界大戦に連なるドイツとフランスとの小競り合いの理由として、両国の国境付近にあるルール地方、ザール地方という地域でよく産出される石炭、鉄鋼の利権争いがあったからです。良質な石炭、鉄鋼が取れるためにドイツとフランスの揉め事になっていたのです。だから「この地方を共同管理することで揉め事が起きないようにしよう!」というが、このECSC設立の目的でした。つまりドイツに石炭とか鉄鋼をもたせるとロクなことにならないから、まずその火種をつぶすということですね。
ですから、EUの原点となった共同体はいわゆる「不戦の誓い」というような理想主義的なものではなく、現実主義的なドイツ封じ込め作戦だったわけです。EUというものを「欧州統合の夢」みたいなナイーブな語り方をする時点ですでに認識が誤っている、ということですね。
英国がEUに加盟した理由
ところがこのECSC、そしてそれに続くECには当初英国は加盟していませんでした。なぜならフランスの当時の大統領シャルル・ド・ゴールが大の英国嫌いで、英国のEC加盟を断じて許さなかったからです。結果的にはシャルル・ド・ゴールが亡くなった後に英国がECに加盟できることになりましたが。
ではなぜ英国は必死にECに入ろうとしたか?
これも実は第二次世界大戦に関係があります。
本筋ではないのでサラッと書いてしまいますが、第二次世界大戦によって東南アジアやアフリカなどにあった植民地が次々と独立してしまったことで、英国は以前持っていた巨大な市場を失ってしまいました。その代わりの市場確保が必須だったので、ECの市場が喉から手が出るほど欲しかった、というわけです。あくまで経済的利益の確保のため。別に世界秩序の安定だとか、不戦の誓いだとかはどうでも良かったのです (そこまで言うと言い過ぎかもしれませんが(笑))。
だからこそ自国の利益に反するような条約や取り決めは最初から拒否しています。
それが人の行き来を自由にするシェンゲン協定やお金の移動を自由にする単一通貨ユーロなどです。つまり英国はEC加盟当時から徹頭徹尾自国第一主義だったのです。それを今更「自分のことしか考えてない」「時代の流れに背を向けた方針転換」とか言われても、英国としては
だから最初からそう言ってるじゃねーかwww
何をいまさらwww
という感じでしょう。
10年もめても100年後に勝てば良い
この辺りの戦略性はさすがにかつての大英帝国の凄みを感じます。
特にユーロ導入を拒否したことは慧眼だと言わざるを得ません。もし単一通貨ユーロを導入していたら、そもそも離脱すること自体不可能だったでしょう。英国はEUに加盟する時点から「抜けようと思えば抜けられる」というシナリオのための一手は打っておいたと考えるのが自然。EU離脱は当初から英国の選択肢に含まれていたということです。
恐らくこれが日本だったら「他の国と足並みを乱す訳にはいかないから」といういわゆる”日本人的な同調圧力”に屈してやすやすとユーロを導入していたことでしょう。
もちろん、今回のEU離脱による影響を「大したことない」とまで言うつもりはありません。まだEUやアメリカ、その他の国々との貿易交渉もまとまっていません。また今回は詳しく書きませんが、アイルランドとの国境問題、スコットランド独立問題など課題は山積みです。しかし、“それだけ”です。
フランスの人類学者であるエマニュエル・トッドも指摘していますが、10年あるいは一世代 (30年)くらいは揉めるかもしれない。しかし、かと言ってアイルランドやスコットランドが“ドイツ帝国”であるEUに頭を下げるとは考えられない。揉め事は続くでしょうが、最終的にはうまく英国として自立していくでしょう。そこにはイギリスの「10年もめても100年後に勝てば良い」というような長期的な戦略性が見えます。
むしろ問題はヨーロッパ大陸の方でしょう。
今後の焦点はむしろ欧州大陸
英国という重しがなくなったことで、フランスとドイツの対立はより先鋭化します (というか、マクロン大統領では何ともならないのでドイツにしてやられるのは目に見えている)。また、今後は英国抜きで大国ロシアと真正面からぶつかっていかなければなりません。しかも、欧州はそのロシアにエネルギー資源を握られているので、まともな駆け引きはできそうにありません。さらにアメリカとの経済的・軍事的協力関係も後退。おおまけに隣の中東での紛争にも影響力が行使できないでいます。
これらの諸問題の解決を誰がどう主導していくの??というビジョンが全く見えないのです。 抜けた英国よりも残されたEUの方が課題山積みというのが現実です。
ここ3年ほどは英国離脱問題という大問題が目の前にあったので、とりあえずそれについて騒ぐことで、欧州の長期戦略ビジョンという根本的な課題に向き合わずに済んできました。ある意味英国がはけ口だったわけです。
しかし、英国が正式に離脱したことで、今後はEUはその根本的な課題に取り組まざるを得ません。果たしてこの大問題が一体どうなるのか・・・。離脱を決めた英国よりも、むしろ抜けられたEUの方こそが暗雲が垂れ込めており、その影響の方が日本にとっても無視できないものになるのではないでしょうか。
ちなみに、この現状に対して日経新聞の一面がどう締めくくっているかというと・・・
「いまは分断を修復する欧州流の強い意志に期待するしかない。」
だそうです。
駄目だこりゃwww
今回も長文を最後までお読み頂きありがとうございました😆