世界を救う読書

ビジネス書から文芸書までさまざまな本を通して世界の見方を考えるブログ

読書スピードが遅いあなたへ。堂々とゆっくり読んだ方が良いという話

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本の読む人には2つのタイプがいる。それは

「速く読むやつか、ゆっくり読むやつか」だ!

 

・・・と偉そうに始めましたが(笑)、私はがっつり「読むのが遅い人」です。

しかしながら、ご存知の通り現代は「速読こそ絶対正義!」的な風潮。

実際、書店やAmazonを覗けば「速読法」を紹介した本がわんさかあります。逆に「本をゆっくり読む方法」について書かれた本はほとんどありません。それこそ「本を読むのが遅いやつに人権なんかない!」とばかりに。

でも、皆さんの周りはどうですか? そんなに本を読むのが速い人っていますか?

実際は本を読むのが遅い人がほとんどなのではないでしょうか? いや、ほとんどのはず(希望的観測!)

 

しかし、現実には速読は良いこと、遅読は悪いことという風潮がかなり強く、遅読の人は肩身が狭い思いをしている人がほとんど。それどころか、読むのが遅い人は遅読であることに少なからずコンプレックスを抱いているケースがほとんどではないでしょうか。

 

そこで今回は私のような本を読むのが遅い人に堂々と、ゆっくりと本を読むことを推奨する、「スローリーディング」について書かれた本を紹介します。

それがこちらです。

平野啓一郎著「本の読み方」

本の読み方 スロー・リーディングの実践 (PHP文庫)
 

 

  

著者紹介

今回ご紹介する「本の読み方」の著者 平野啓一郎氏は、福山雅治石田ゆり子が主演を務めた映画「マチネの終わりに」の原作小説を書いた作家。

私はこの作品はそれしか知りませんでしたが、実は大学在学中に書いた小説「日蝕」で芥川賞を受賞しており、随分長いこと活躍しているようです。海外向けにも翻訳されて、広く海外でもその作品が紹介されている模様。

また、小説以外にもさまざまなエッセイを執筆するなど、作家業を中心に幅広く活躍していらっしゃいます。

 

こんな人にオススメ

・本を読むのが遅い人

・速読法にチャレンジしたことがある人

・本を読むのが速い人

 

響いた言葉

あくまで主観ですが、この本の中で私に響いた言葉を抜粋してみました。

・速読は明日のための読書。遅読は5年後、10年後のための読書。

・主体的に考える力を伸ばすこと。これこそが、読書の本来の目的である。

 

本書の構成

まず、この本では現代の絶対正義とも言える「 速読」の悪い点を挙げます。

次に、本を遅くよむ「スローリーディング」の良い点を挙げます。

ただ、スローリーディングとは言っても、単純にゆっくり読めば良いという訳ではありません。ゆっくり読みながら、ちゃんと中身を理解する方法が紹介されています。

そして、最後にカフカの「変身」、夏目漱石の「こころ」など、世界的な名著を練習問題にしながら実践的な本の読み方を解説する。

こんな構成になっています。

 

 

なぜスローリーディングを推奨するのか。 

平野氏が推奨するのがスローリーディングこと、「ゆっくり読む本の読み方」です。

速読全盛の現代でわざわざスローリーディングを提唱するのは、「一年間に何冊読んだ、といった類の大食い競争のような読書量の誇示にも辟易して」いたこと。また、それによって読書本来の目的である「主体的に考える力を伸ばす」ことが軽視されていることに警鐘を鳴らすためです。

したがって、本書では特に前半は「アンチ速読」的な表現が目立ちます。例えば

「速読で得た知識は脂肪みたいなものだ」

 

「(文章を読むのではなくページを写真のように読み取るという速読法に対して)こういう突拍子もない話は、一般人の心理学や脳科学に対する無知につけこんだ怪しげな理論」

 

「私達の中には、速い仕事にはどこか信用できないという思いが強く存在している。(中略)つまり、速読の技術をいくらみにつけてみたところで、重要な書類は怖くて任せられないかあ、結局、速読で処理すればいい程度の書類ばかりが回ってくるというハメになるのである。」

 

など。

著者と同じく「速読絶対正義」という風潮に嫌気がさしている人にとっては、溜飲が下がる思いではないでしょうか。

 

「速読 vs 遅読」の対立を煽ってもしょうがない。

この本では特に序盤で、速読と遅読どちらが役に立つかどうかという軸で話を展開しています。極端に言えば、速読で得られる知識は浅薄だが、遅読の方は深く知識を得られるから、遅読の方が役に立つんだという感じです。

著者は頻繁に「遅読の方が役に立つ」という言い方をします。

しかし、実は「役に立つか、役に立たないか」という価値判定の軸がすでに主観ではないでしょうか。

例えばビジネスマンが業務に役立つ知識を得たいのであれば、速く、大量に読める方が役に立つことになり、遅読は役に立たないことになる。だから著者の「遅読の方が役に立つ」という話の展開は、速読派と水掛け論になるだけなので、あまり有意義な議論ではないのではないだろうかと思うのです。

 

この本の価値は「速読 vs 遅読」を超えたところにある

 

この本が速読へのアンチテーゼとして推奨するスローリーディングという方法は、「読書スピード自体を目的化しない」という意味ではたしかに「遅読のススメ」ではあります。何度も書いているように、著者は「速読なんか駄目。スローリーディングの方が優れている!」と主張しています。

しかし、よくよく読み込むと実は著者が推奨しているのは、「速読 vs 遅読」のようなスピード対決ではなく、もっと深い本の読み方であることが分かります。

 

著者は遅読を推奨していますが、「ただゆっくり読めば良いというわけじゃない」とも言っています。ゆっくり読めば何でも良いというわけではなく、

 

・著者の主張を受動的に受け入れるだけでなく、常に「なぜ?」という疑問を持ちながら読む。

・著者の意図を理解する

・何度も読み返す

・全体の構造を理解しながら読む

 

という取り組み方が重要だ、と説いています。

 

ところが、これって実は多くの速読術でも似たようなことを説明しているんですよね。

 

確かに速読術にもいろんなやり方があるので一概には言えません。

中には「文字を読むんじゃなくて、写真を脳に焼き付けるようにしてイメージで叩き込む」みたいな方法もあります。

一昔前は速読と言えばそういう特殊な方法でしたが、昨今はどちらからと言えばそういうアプローチは”キワモノ”です。最近の主流な速読術は「ポイントを押さえて、ちゃんと内容を理解して読む」というアプローチです。

 

スポーツでも何でも同じだと思いますが、やり方は同じでも人によって進行のスピードは違ってきます。いわゆる昨今の主流な「速読法」と平野氏の「スローリーディング」は”その程度の違い”しかないように思います。

だから、むしろ速く読みたいと思っている人にこそ、この”あえて遅く、じっくりと読み込む”というアプローチを知って欲しい。

速読か?

遅読か?

という二者択一ではなく、本を読むという行為をさまざまな方向から見つめることで、「読書の目的を改めて確認する」ことができるのではないかと思うのです。

 

本の読み方を考えることで新しい世界を発見できる

元々「本をどのように読むか」は自由です。

「読みたいように読めば良い」が正しいと思います。

たとえば幕末の志士の坂本龍馬は少年時代に塾に通っていた際、教科書を逆さまに持って読んでいたが内容をしっかり理解しており、先生を驚かせたという話があります。

それが嘘か本当かは分かりません。

ただ、極端な話、そのような読み方でも、ちゃんと本の内容を理解して、それを現実世界に応用できるのであれば、何も問題ないと思います。

 

しかし、本をあまり読まない人はもちろん、本を読むのが日課だという人でも、さまざまな本の読み方を知るということはとても有意義なことではないでしょうか。

「その程度のことか。つまらないな。」と思うかもしれませんが、もしかしたら「そんな読み方があるのだったら、もっと早く知っておきたかった!」という発見もあるかもしれません。

どちらにしても自分の読み方という世界から一歩踏み出してこそ、考えもしなかった新たな発見があるかもしれないのです。

 

この本は新書タイプで、表現もとても簡単で非常に読みやすい内容になっています。

本を読むのが遅いというコンプレックスを持っている人には、そのコンプレックスの解消に。

逆に、本は速く読んでなんぼ!という人には、今一度自分の読書法を別の視点から考えてみるのにとても良い機会になるのではないかと思います。

・・・・つまり、本を読むのが速かろうが遅かろうが、本を読むのが好きなら一読の価値あり!ってことです(笑)。

 

という訳で、今回ご紹介したのはこちらの本でした。

本の読み方 スロー・リーディングの実践 (PHP文庫)
 

 

ちなみに、以前のこちらの投稿では速く読むための技術について書かれた本をご紹介しました。

よろしければこちらもご一読ください。

 

 

 
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