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映画「るろうに剣心」に寄せて。”るろ剣”の真のテーマと長年愛される理由。

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いよいよ、ついに、この時がやってきました・・・

 

るろうに剣心最終章「The Final」が4月23日に公開されました!!!

 

私にとって「るろうに剣心」は、”人生を変えた”と言っても過言ではない作品。

私の人生は「るろ剣」なしには語ることができません (「たかが漫画で大げさな」とか言わないでくださいね・・・)。

何といっても私は、るろうに剣心の作者である和月伸宏のデビュー作からのファン。

さらに言えば、和月氏がデビュー前にアシスタントを務めていた小畑健の作品『魔神冒険譚ランプ・ランプ』の頃から、和月氏に注目していましたから!

さらにさらに、るろうに剣心の前哨戦ともいえる作品 「戦国の三日月」をリアルタイムで読んでいた男ですから!

筋金入りです!

 

今回の投稿では、そんな私の超個人的な「漫画版 るろうに剣心」への思いに加え、

・漫画「るろうに剣心」の概要

・映画「るろうに剣心」の概要

・「るろうに剣心」がなぜ時代に残る名作になったのか

・”売れる作品”と”名作”の違い

について考察。

その上で、今だからこそ言いたい私の自説

「漫画るろうに剣心は”本当は和月氏はこう終わるだったはず!”」という連載当時から確信していた”真のるろうに剣心エンディング”

も披露しようと思います (「妄想」とも言う(笑))。

 

こうあるべきだった

・「映画版 るろうに剣心」への期待

について書いてみます。

これを読めば、あなたも「るろうに剣心」を観たくなるはず!多分!

漫画「るろうに剣心」の概要

るろ剣”という愛称で親しまれる「るろうに剣心明治剣客浪漫譚ー」。

1994年から1999年にかけて週刊少年ジャンプに連載された漫画で、明治十年という少年誌にしては一風変わった時代を舞台にした作品です。

主人公の名は「緋村剣心 (ひむら けんしん)」。

見た目は身長が低く、優男風。爽やかな笑顔でとても人当たりの良い人物。

しかし、実は彼は江戸末期の京都にて政府要人を暗殺する人斬りとして、恐れられた最強の剣客だった。あまりに多くの人を斬ったため、ついたあだ名は”人斬り抜刀斎”。

そんな男が明治になってからは、人を斬ることを一切封じ、世間で苦しむ市井の人々を陰ながら助ける流浪の旅を行っていた。

 その緋村剣心はひょんなことから、神谷薫という女性と出会い、彼女が道場主を務める剣術道場に居候することになる。

その緋村剣心の前に、”人斬り抜刀斎”としての力をもってしか太刀打ちできない強大な敵が次々と現れる。

はたして剣心は、その強大な敵をしりぞけつつ、神谷薫や仲間たちとのつつましい生活をも守り続けることができるのかー。そんなストーリーです。

映画「るろうに剣心」の概要

この漫画るろうに剣心を原作として、大友啓史(おおとも けいし)監督の下、実写映画化されたのが「実写版るろうに剣心」です。

主人公の緋村剣心には、その身体能力の高さと"優男"風というイメージにピッタリな佐藤健がキャスティングされ、ファンの間でもかなり期待値が高まりました。

現在までに

2012年「るろうに剣心

2014年「るろうに剣心 京都大火編」「るろうに剣心 伝説の最後編」

が公開された。

そして今年原作の最終章である「人誅編」を描いた「最終章 (前編) The Final」が公開。その後6月4日に「最終章 (後編) The Beggining」が公開予定です。

映画版「るろうに剣心」。前作までの感想

実際のところ、るろうに剣心の映画化と聞いたときは微妙でした(笑)。「どうせ原作レイプだろ」という感じです。るろうに剣心の世界観を実写で表現できるわけがないと確信していましたので。

ただ、その一作目の映画は予想に反して、かなり見応えがありました。とくにアクションに関してはかなりの高レベル。

ストーリーは原作ファンとしては違和感がかなりありましたが、恐らく製作陣も「二作目がやれる」とは思っていなかったのではないでしょうか。かなり"詰め込んだ感"があったのは事実です。

それでも「ちゃんと描ける時間があれば、もっと面白かったのかもしれない。それだけに残念。」と思わせるクオリティではあったと思います。

 

果たして、続編の京都大火編と伝説の最後編は、ストーリー的にもかなり練られており、「アクションだけじゃないんだ」とファンを唸らせる展開でした。まぁ、それでも詰め込み感はあり、「あと3時間あればなぁ…」とは思いましたが(笑)。

 

そして、ついに今年最終章となる、剣心の十字傷の秘密を知る男「雪代縁(ゆきしろ えにし)」との戦いを描く「The Final」、剣心が人斬り抜刀斎として生きた幕末を描いた「The Beggining」の二部作が公開となります。

少年漫画の主人公しては異例な"闇"を心に抱える剣心が、自分が犯した罪とどのように向かい合うのか?

宿敵との戦いの果てに、自分の過去を乗り越える答えを見つけることができるのか?

この難しいテーマが果たしてどのように描かれるのか注目です。

るろうに剣心はなぜ面白かったのか?

正直に言って、るろうに剣心という漫画は爆発的ヒット作と言えるほどの作品ではないと思います。

週刊少年ジャンプで連載されていた頃、同誌では

ドラゴンボール

スラムダンク

ジョジョの奇妙な冒険

幽遊白書

など、まさに爆発的ヒットと言える名作がひしめき合っていました。

それらの作品と比べると、るろうに剣心はいささか"小物感"があるのは否めません。アニメ化もされたし、ゲームにもなった。小説にもなりました。

ですが、社会現象といえるほどの影響力があったかといえば、残念ながら力不足だったと言わざるを得ないでしょう。

 

では、原作終了から20年あまりが経過しても、なぜるろうに剣心は多くのファンから愛され続けるのでしょうか?

さまざまな理由があると思いますが、やはり私は主人公である緋村剣心に与えられた"主人公らしからぬ設定"にあるのではないかと思います。

王道と真逆の主人公

るろうに剣心の主人公・緋村剣心は、幕末に維新志士側の暗殺者として活躍し、“人斬り抜刀斎”と恐れられた男。数多くの暗殺者がうごめく京都において「最強」の人斬りだった。

そもそもこの設定自体が当時の常識から考えて異常 (現在だとサイコパス系の主人公も散見されますが、当時としてはかなり異例)。王道としては「人斬りに親兄弟を殺された主人公」という設定のはず。

ところがこのるろうに剣心は「殺しまくった人間」が主役です。王道から外れまくっています。

それに加え、緋村剣心は”最初から"最強だという点も異例です。

少年漫画としては「弱い主人公が友情と努力で強くなる」のが王道ですが、第一話目から最強の剣客というのは、かなり変わった設定だったと言えるでしょう。

 

正直これでは少年漫画の主人公としては微妙です。

少年漫画の主人公にとって重要なのは「読者が共感を覚えるかどうか」です。その意味では「最初は弱い主人公が努力して強くなっていく」という物語は、読者が共感しやすい設定です (今大流行している鬼滅の刃も「家族を大事にする」というところが、今の時代に共感を得やすい設定だと言われています)。

では、緋村剣心は一体どういう点で読者の共感を得ることができたのか?

最強にして最弱。それが緋村剣心の魅力

王道とは真逆の設定でありながら、緋村剣心が主人公としての魅力を勝ち取ることができた理由。それは「剣術の腕は最強だが、心は最弱」という点にあります。

剣心は新しい時代を切り開くという崇高な理想を持っていたものの、数え切れない人たちを斬ったという重い過去を背負っている。自分には人並みの幸せを得る権利はないと思っているからこそ、明治維新後も誰とも深い付き合いはせず、10年もの間孤独な放浪旅を送っていた。

心が最弱というと語弊があるかもしれませんが、どこか自分の命を軽く見ているし、思い過去を乗り越えて幸せに生きようと言えるほどの心の強さを持つことができないでいる。

そういう心の闇を抱えたところが、「誰も本当の自分の気持ちをわかってくれない」とどこか”精神的な放浪生活”を送っているような悩み多き10代の少年たちの心に響いたのではないでしょうか。

それまでの漫画の王道だった「あこがれ」「爽快感」「(肉体的に)強くなって困難を乗り越える」というのとは違った形で、読者の心を掴んだのが緋村剣心という主人公だったと思うのです。

精神の成長という新しい物語展開を実践したるろうに剣心

るろうに剣心以前の漫画では、ほとんどの場合が肉体的に強くなり、敵を打ち倒すことで物語が展開されていました。もちろん肉体と精神は強く結びついていますので、どちらか一方だけで成立するわけではありません。あくまでバランスの問題ではありますが、やはり肉体的な強さの方が”少年誌的なわかりやすさ”という面で有利ですので、どうしても肉体的な強さでストーリー展開が進むことが多かった。

その点るろうに剣心はより深く精神的な強さの方に踏み込んだ作品だったと言えます。

特に師匠から最強の奥義を会得する際に、それがドラマチックに描かれます。

剣の技術では剣心よりも強い師匠が繰り出す技に打ち勝つには、技術だけでは足りない。

生死を分けるコンマ数秒の戦いの中で、「自分は罪深い人間だからいつ死んでもいい」という後ろ向きな生き方を乗り越えること。そして自分のためではなく、「自分の愛する人や大切な仲間のために、俺は死ぬわけにはいかないんだ」という”生きようとする意思”を強く持つこと。

これこそが奥義会得のためにもっとも大切な要素だった。

それに気づいた剣心はようやく自分自身の命と正面から向かい合う心の強さを得ることができたのでした。

こういった、より精神面での成長をドラマとして描く作品はかなり少なかったように思いますし、この点こそ今でもなお読者の心を引きつけ続ける「るろうに剣心」の魅力なのではないでしょうか。

今回の映画はめちゃくちゃ暗い話になる??

さて、そんなこんなで(笑)、ようやくまっとうな幸せを手に入れようと歩みだした緋村剣心

そんな彼の前に、ついに自分の心のもっとも奥深くに刻み込まれた過去の苦い記憶と、自分の犯した最大の罪と向き合わなければならない敵が現れます。

それが今回の映画「The Final」と「The Beggining」の敵である、雪代縁です。

 

映画版がどのように描かれるのかまだ分かりませんが、少なくとも漫画版ではこの章はかなりシリアスで暗い話になっています。少年誌的にはNGじゃなんじゃないかというくらい暗い。

前章である「京都編」がかなり大人気だったお陰で何とか連載を続けられましたが、それがなかったら途中で打ち切りになっていてもおかしくないくらい暗いです。

その最大の原因は「ヒロインである神谷薫が死ぬ」というまさかの展開があるからです。

いや、たしかに精神性を強く打ち出した作品だとは分かっていましたが、まさか少年誌でヒロインが主人公の目の前で殺されるとかあります??

 

ただ、 実際にはこれは「神谷薫そっくりの人形」であり、神谷薫は死んでいなかったという展開だったので、一安心だったのですが。

それでも週刊連載中の半年くらいは「神谷薫は死んだ」ということで話が進んでいきましたので、相当インパクトがあったのは間違いありません。

この点が今回の映画でどのように描かれるのかも、かなり興味が惹かれるところです。

 

本当はこうだったはず?漫画版「るろうに剣心」のラスト 

さて、先程最終章の「ヒロインである神谷薫が死んだ・・・と思っていたら生きていた」という話題を述べました。

実は私この部分のストーリー展開こそ「るろうに剣心」最大の山場であり、ここにこそ最大の魅力があると思っていますので、ちょっと詳しく紹介したいと思います。

以下、激しくネタバレになりますので要注意でお願いします!!

 

前述の通り、この最終章において一旦神谷薫は殺されます。

殺すのは今回の映画版の敵役である雪代縁。雪代縁は雪代巴 (ゆきしろ ともえ)という女性の弟であり、この巴は幕末当時緋村剣心の妻でした。

そう。「妻だった」のであり、明治にはすでに故人となっています。

そして、この巴を殺したのが、他でもない夫である緋村剣心だったのです。これは悲劇的な不慮の事故であり、剣心は何も悪くないのですが、その惨殺の現場だけを見た縁は「剣心が姉を殺した」として復讐を企みます。

その復讐の手段として「緋村剣心がいま愛している女、神谷薫を剣心の目の前で殺す」という方法をとるのです。

・・・が、諸事情のための縁には神谷薫をことはできず、その代わりに精巧に作られた神谷薫の人形を死体に見立て、剣心に「お前のせいで、この女は死んだんだ」と思い込ませることにしたわけです。

結論を言ってしまえば、この計画は明るみになり、神谷薫は無事に剣心の下に戻り、物語はハッピーエンドを迎えます。

 

しかし。

私は、もし作者がこの「るろうに剣心」という作品の”作品性”を重視し、自分の伝えたいテーマを描くことを貫くのであれば、神谷薫は本当に殺すべきだった、と思っています。

作者が剣心の人生を通して伝えたかったのは、神谷薫を殺され、失意のどん底で自暴自棄になって仲間をも見捨てようとした剣心に、とある人物が諭した次の言葉だったはずです。

「大事なものを失って、身も心も疲れ果て、けれどそれでも決して捨てることができない想いがあるならば、誰が何と言おうとそれこそが君だけの唯一の真実だ。」

 

人生には死ぬほど辛いことがたくさんある。本当に死にたくなるようなときもあるし、何もかもがどうでも良くなるような時だってある。

でも、そういう時においてさえ、人には「決してこれだけ譲れない」という何かがあるはず。それがどんなに下らないことでも、甘っちょろい戯言でもいい。

自分が本当に正しいと思うなら、それに従って生きろ。誰の真実でもない。それこそが自分自身にとっての真実なのだから。

これが作者が伝えたかったメッセージだったと思います。

 

だとするなら、文字通り剣心には「すべてを失わせなければならなかったはず」です。

一応、剣心は神谷薫が実は生きていたということを知る前に、自力で立ち上がることに成功しますが、それでも物語の厚みという意味では神谷薫が生きていたことで説得力が薄くなった感は否めません。

最愛の人を守れず、目の前で惨殺されたとしても、それでも”目の前の人々の幸せを守る”という信念に従って最後まで生きていく・・・それがこの作品のテーマをもっとも強く打ち出せるエンディングだったと思います。

恐らくそれは作者は百も承知だったはず。

けれども、その手法は取らなかった。

なぜでしょうか?

私がるろうに剣心を愛する理由

神谷薫が死ななかった理由。

もちろん「少年誌的にそれは・・・」という大人の立場もあったと思います。

実際、神谷薫が死んだ(ということになった)後、るろうに剣心の少年ジャンプでの掲載順は見る見る後ろへ下がっていきました。ジャンプは人気投票で掲載順が決まるので、ヒロインが死ぬという衝撃的な展開がファン離れを引き起こしたのは間違いありません (それはコミックスで作者も言及している)。

ただ、そういった「少年誌的な配慮」という以上に、作者が”エンターテインメント”という物にこだわったからというのが最大の理由だったと思います。

作者である和月氏はコミックスの中で、物語展開の裏話とかキャラ設定が反省点とかを載せているのですが、その中で何度も「エンターテインメントはハッピーエンドであるべき」という持論を掲げています。

それはやはり「自分もそうやって漫画というエンターテインメントから夢や希望を受け取ってきた。自分もその一端にいる以上、読者に夢を届ける作品を書くべきだ」という自負があるのだと思います。

 

確かに神谷薫を殺した方が作品性はより高まるのは間違いない。

これは連載中にも思っていたし、今でもそう思っています。

しかし、問題はそれでは絶対ハッピーエンドにはならないということ。

どちらを取るべきかの激しい葛藤の結果、作品性よりもエンターテインメントであることを選び取ったのではないか・・・・私はそのように思っています。

実はこれこそが私がるろうに剣心を愛してやまない理由です。

るろうに剣心という作品自体もそうですが、この作品を通じて作者の苦悩が染み出しているー。それが私がるろうに剣心に惹きつけられる理由です。

ジョジョの奇妙な冒険のように、練りに練られたストーリー展開とキャラ設定で、息をつかせぬ展開で読者を引きつけるというのも、非常に面白いと思いますし、それこそが名作であるとも思います。

そういう意味では「るろうに剣心」は残念ながら名作とは言えないかもしれない。

ただ、物語の流れを丁寧におっていくことで、作者の苦悩や成長が見えてきます。

その作者成長の物語に自分自身の苦悩や楽しみを投影し、作者と一緒に成長しているような不思議な感覚を味わえる作品だと言えるのではないかと思うのです。

最終巻の作者コメントへの思い

繰り返しになりますが、このるろうに剣心が世間一般で言われる”名作”かどうかは分かりません。

ただ私にとってるろうに剣心はとても特別な作品なのは間違いありません。

この作品をきっかけにして、私はそれまで知らなかった新しい世界にたくさん触れることができました。

幕末という時代に興味を持ったことで、日本のみならず世界の歴史や経済、そして政治制度などの様々な問題について知見を広げることになりました。いささか大げさに言えば「自分が生きる理由」を考えるきっかけになったとさえ言えます。

 

先程も書いたように、この「るろうに剣心」のコミックには、作者によるこの作品へのさまざまなコメントが載せられています。

その最終巻の巻末に掲載してあるコメントが、この方の漫画家としての矜持がとてもよく現れています。文章としては拙いと思いますが、「るろうに剣心」という作品の締めとしてとても良い文章だと思いますので、転載させていただきます。 

 

「プロの漫画は作品であると同時に商品です。商品である以上、買った人がそれでどのように楽しもうとそれはその人の自由です。

通勤通学にヒマ潰しで読むも良し、読み飽きたら捨てるも良し、古本屋に売るも良し、本当に自由です。

けど、それでも和月はこの「るろうに剣心明治剣客浪漫譚ー」が皆さんの本棚の片隅に長く残ってくれる様、作者の勝手なエゴだとわかっていても、願って止みません。

和月の本棚の片隅に今もならんでいる、子供の頃に買った幾つかの漫画と同じ様にこの漫画がなれたら、これ以上嬉しいコトはありません。

1999年10月某日 和月伸宏

 

これから何百冊、何千冊と本を買い求め、その中にはいろいろな事情で手放さざるを得ない作品もあると思います。

しかし、この「るろうに剣心」だけは恐らく私が死ぬまで、私の書棚で生き続けることは間違いなさそうです。

 

今回も長文を最後までお読みいただきありがとうございましたm(_ _)m


 

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