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映画「るろうに剣心 The Beginning」。ファン歴30年が語る感想。

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ついにこの時がやって来た・・・!

映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」が公開!

映画の初公開から足掛け10年にわたる歴史がついに終止符。

果たしてその結末とはいかに??

原作から数えて30年弱のファン歴を誇る一ファンの目にどのように映ったのかを語り尽くす。

※前作「The Final」については以前のこちらで投稿。

よろしければこちらも

 

総評

この映画「るろうに剣心」は、言わずもがな昔週刊少年ジャンプにて連載されていた漫画「るろうに剣心 明治剣客浪漫」を実写映画化した作品。

2012年に初作、2014年に京都大火編が公開。そして今年、原作の最終章「人誅編」に当たる「The Final」「The Beginning」が公開された。

実は原作では、このThe FinalとThe Beginningに当たる話は、ひと繋がりのストーリーとして描かれている(The Finalのパートは現在の話で、The Beginningのパートは主人公の”回想シーン”として描かれている)。

映画版では大胆にもこれを別作品として切り分けたのだが、”原作ファン”としてはちょっと考えられないアプローチであり、これが功を奏するのかが非常に気がかりとなっていた。

では、実際に映画版を観てどうだったのか?

 

結論から言えば・・・

めっちゃ面白かった!!(笑)

正直「これでつまらない作品になっていたら、原作レ○プとして、スタッフにクレーム入れてやろう。何なら原作者に”お前はこれで良かったと思っているのか”と投書してやろう。」と思っていたのだが(※冗談です)、そんな心配していたのがアホらしいくらいに面白かった!

 

ただし。

ただし、だ。

この作品だけを切り分けて一個の単独作品として見れば面白かったのだが、これをもって「るろうに剣心」という映画シリーズ全体が有終の美を飾ることができたのか?という意味では、手放しでは喜べないところがある。

各論としては素晴らしいが総論としては微妙だった、とでも言うべきか。この点についてもう少し詳しく考えてみよう。

The Beginningの素晴らしかった点

ストーリーとアクションのバランスが素晴らしい

何と言ってもストーリーとアクションのバランスが素晴らしい内容だった点を挙げるべきだろう。

今までのるろうに剣心は「時代劇アクション」と分類できる映画だった。主人公緋村剣心を演じる佐藤健の超人的な身体能力を最大限に引き出すべく、演出、シナリオ、カメラワークすべてが”息をつかせない”アクションシーンが最大の見せ場だった。いわゆるアメリカ映画的な派手さはないものの、その質においては世界にも誇れるレベルの高さだったと言えるだろう。

その一方でストーリーの深みという意味では、若干完成度に劣っていたところは否めない。賛否両論あるだろうが、あくまでアクションが主、ストーリーは従、という位置づけだったと言って差し支えないだろう。

しかし、今作においては緋村抜刀斎や雪代巴の心の動きを描くストーリーが中心で、アクションはそれを引き立てるための素材として上手く活用されていた。このバランスが絶妙だった。

今までの「アクション映画」を期待した観客には意外に映るかもしれないが、恐らく良い意味で期待を裏切るるろうに剣心のドラマ性」を堪能できるのではないだろうか。

 

新しい「時代劇」の姿を見せた

次に素晴らしかったのは、「時代劇」という映画表現に新しいアプローチを見せたことだ。

映画るろうに剣心のプロデューサーである小岩井宏悦 (こいわい ひろよし) 氏によると、そもそも2009年に映画るろうに剣心のプロジェクトを立ち上げた際にも、「若い人は時代劇を観ない」という反対意見があったようだ。

当然だろう。

平成以降の世代で「時代劇を観るのが趣味」という人はほとんどいない。いくらイケメン俳優・佐藤健を主役にするからと言って、「時代劇でもこのコンテンツは成功する」と予想できなかっただろう。

だが、制作陣はその下馬評を見事に覆した。

佐藤健が若い世代を捕まえる取っ掛かりになったのは間違いないが、今までの日本映画にはなかった刀を使った息を呑むアクションで高い評価を勝ち取り、実績を残した (興行収入は初作が30億円、京都大火編が52億円、そして前作The Finalは5月末時点で既に興行収入30億円を突破)。

その意味ですでに映画るろうに剣心は既存の「時代劇」という枠を塗り替えたと言っても過言ではないが、今作The Beginningではそれをさらに超えるものを出してきた。

 

今まではスピード感や(刀のぶつかり合いなどの)サウンドを強調した”アクション映画として格好良い”というビジュアル重視の見せ方をとってきたが、今回は一転して”格好良い時代劇”を見せてきたのだ。その最大の違いは”静けさ”だ。

たしかにスピードやサウンドによる力強い映像は今までを踏襲している。しかし、今回の作品はとにかく”静か”なのだ。

静かなアクション映画

今回のThe Beginningが今までの作品と違うところの一つが「静けさ」にある。

もちろんそれは単純なボリュームの大小の話ではない。

大音量のシーンでもどこか寂しさを感じさせるような静けさを感じさせるのだ。

 

要因のひとつは、緋村抜刀斎が振るう刀の違いにある。

今までのシリーズでは主人公・緋村剣心が使っていたカタナは、刃と峰が逆になった”人を殺せない”刀、逆刃刀を振るっていた。そのためどうしても敵を倒すのに、何度も叩きつける必要がある。

しかし、今作の緋村抜刀斎が振るうのは普通の”人を殺せる刀”だ。つまり一振りで殺せる。結果、戦い自体は一瞬で決着がつく。

そのため多くの相手を斬り殺しても、戦闘シーン自体はそれほど長くならず、アクション映画的な大音量も少なくなっている。それによって物理的に静かという面がある。

 

そして、この作品の静けさのもう一つの要因は役者たちの演技にある。

作品を通じて感じたのは役者に無駄な動きがほとんどないことだ。分かりやすいのはヒロインである雪代巴(有村架純)の動きだろう。

巴が武家の人間という設定もあり、所作に無駄がなく、動きに大げさなところがない。役柄的に「クールビューティ」ということで、言葉や表情も非常に冷たい感じであるところが物語全般に静けさを与えている。

それ以外のキャラクターにしても、常に「いつ死ぬか分からない」という緊迫感があるせいか、無駄な動きがほとんどなく、結果的に今までの作品のような”賑やかな”空気感とは全く違う作品になっている。

アクション性と物語性が融合した作品

このアプローチは、るろうに剣心シリーズの派手なアクション性を期待した視聴者にとっては面食らうかもしれない。派手な剣戟アクションを求めたいた人からすれば、物足りない部分もあっただろう。

だが、見た目の派手さよりもキャラクターの心情、つまり緋村抜刀斎や雪代巴が抱える心の闇や心の変化の機微。そしてラストに向かって収束していく二人の悲劇的な運命をより深くえぐり出すのには、この静けさによる表現は非常に効果的だったと思う。

特に二人の最期のシーンにおいては、この静けさが二人の悲哀を極限にまで高めており、原作とは全く違う”はかなさ”と”美しさ”を描いていた。このシーンに関しては、もう完全に原作を超えたと言っても過言ではない。

この静けさこそが、日本映画でもトップクラスのアクション性と、これまでのるろうに剣心シリーズでは必ずしも突き詰められなかった物語性を、この作品において上手く融合させた要因ではないかと思う。

The Beginning単体の評価

という訳で。

るろうに剣心の原作からの熱烈なファンでもある私としては、The Beginningは予想を遥かに超えた素晴らしい作品だったと思う。

正直、雪代巴が有村架純だと聞いたときは「ないわ。マジないわ。有村架純に巴はできない。無理。」と思っていたのだが・・・・すみませんでした!!

私のイメージの巴とは違ったけれども、この作品の雪代巴としては確かに有村架純にしかできない役だったのかもしれない。

若干歴史的な知識や、原作を知らないと意味が分からないところがあるのは事実だが、るろうに剣心ファンではない人にもお勧めできる作品になっている。

The Beginningのイマイチだった点

・・・と、ここまではThe Beginningの良い点を挙げた。

しかし、この作品が100点満点だったのか?と言われれば、残念ながらそうは言えないのが事実だ。

確かにThe Beginning単体で観れば素晴らしい出来だったのは間違いない。

だが、るろうに剣心シリーズ全体の中での評価という意味では、「残念な結果だった」というのが正直なところだ。

 

ここからは完全に原作ファンとして見解となる。その点はご了承願いたい。

るろうに剣心のテーマとは何か

以前の投稿でも書いたのだが、私はこのるろうに剣心の映画化において「原作を忠実に再現すること」は求めていない。

重要なことは、るろうに剣心という作品が伝えたかったテーマを描けているかどうかだ。

 

るろうに剣心という漫画には非常に多くのテーマが込められているため、一つに絞ることは難しい。

だが、私の主観も込めつつ敢えて断言するなら

「人生の超克」と「魂の救済」

だと言えるだろう。

人生の超克とは、すなわち「辛く、苦しく、ときに悲しみに溢れた人生を生き抜くことの難しさ」を描くこと。

そして、人生を歩む中で誰しもが少なからず罪を背負うものだが、「その罪は愛する人や仲間の支えによって必ずや許される日が来る」という希望の道を描くこと。これが魂の救済である。

いささか大仰ではあるが、これこそが人斬りを主人公にしたるろうに剣心ならではのテーマだと思う。

しかし、残念ながらこれらのテーマは今作品では描かれなかったと言うしかない。

 

描かれなかった"人生の超克"

前作The Finalのレビューでも書いたことだが、今回のThe Beginningにあたる物語は、本来The Finalの中の回想シーンだ。

緋村剣心は自分の最愛の妻を惨殺したという罪を背負いながら、しかしその罪とは向き合えないままに10年間生きながらえてきた。

だが、10年の時を経てようやくその罪と向き合える心の強さと、信じられる仲間を持てるようになる。だからこそ、その罪を告白し、仲間や新たな伴侶とともにその罪を乗り越える覚悟をもつことができたという流れだ。

その意味でこのパートは単なる回想シーンではなく、緋村剣心が自分の罪と向き合う贖罪のシーンであり、その苦しみを共有することで仲間との絆をより一層深めるための試練でもあった (実際原作では回想シーンの後、仲間が一旦バラバラになるが、再びより絆を強くして集結するというストーリーになっている)。

つまり、The Beginningによって剣心の過去をえぐり出す過程があってこそ、The Finalが本来の意味を持つ。その過程がなければThe Finalの意味合いも半減する。

しかし、今回はこの二つを完全に切り分けるという手法を採用した。

 

上で書いた評価のように、これによりThe Beginning単体でのクオリティを上げることはできたのは事実だ。

だが、剣心が己の罪に向き合いそれを克服するとい過程はすっぽり抜け落ちてしまったのは否めない。

当然ながら、剣心は自分の人生を超克することができなかった。前作で敵役であった縁を倒したのは、あくまでその"人生の超克"の象徴だったはずなのだが、映画ではただの勘違いのシスコン男を力で倒し、相手に自分の過ちを認めさせて終了という、単なる勧善懲悪ドラマのような終わり方になってしまった。

 

誰の魂も救済されなかった

もう一つのテーマである魂の救済だが、これも残念ながら成し遂げられなかったと言える。人生の超克が成し遂げられてこその魂の救済なのだから当たり前だが…。

本来なら剣心が過去の罪に向き合い、心身ともにボロボロとなり、そこから立ち上がる過程において、周りからも赦され、自分自身を赦すプロセスが描かれるはずだった。

だが、剣心が自らの罪を乗り越える過程が描かれなかったため、このプロセスが描かれることもなかった(剣心も10年間苦しんで来たんだから、もう良いでしょ的な浅い扱い…)。

 

これは剣心の魂が救済されなかっただけではない。巴の魂もまた救済されなかったのだ。

巴が命をかけたのは、他でもない剣心を守るためだが、当然それは剣心が幸せに生きることを願ってのこと。結果的に巴の命を奪ったのは剣心だが、それに剣心が縛られ不幸になることは望んでいなかったはずだ。

したがって、剣心が巴の死に縛られたままでは、巴の魂も浮かばれない。剣心が救済されなければ、巴の救済されないまま。剣心が救済されて新たに幸せな人生を歩んでいく…それでこそ巴の魂もまた救済されるはずだった。

実際、原作では剣心と薫が巴の墓を見舞った際に、剣心が巴の墓に「ありがとう。済まない。そしてさようなら。」と告げ、薫立ち去るシーンがある。その際に巴の墓に穏やかな風が流れるのだが、それも正に剣心の幸せが巴の魂を救済したことを示す演出だったのだろう。

 

つまり、剣心の過去の回想をThe Beginningという作品に切り分けたことで、本来描かれなければならなかった"人生の超克"と"魂の救済"の物語がまったく描かれないという事態になってしまったのだ。

これは正直原作ファンとしてかなり残念だ。このような重いテーマを取り扱いながら、ちゃんと商業的にも成功した稀有な作品、それこそが「るろうに剣心」の魅力だった。それ以外の部分がとても優れた映画であった分だけ、肝心なテーマが削ぎ落とされたことは心残りだと言わざるを得ない。

 

それでも制作陣に感謝したい

ここまで辛辣なことを書いておきながら…ではあるものの、るろうに剣心という漫画史に残る名作を映画化してくれた制作陣やスタッフにはとても感謝している。

クオリティが予想を上回る出来だったため、「どうせならここまで描いて欲しかった」と述べたくなるものの、そもそもるろうに剣心の映画化自体が原作ファンにとっては夢のようなことだったのだ。

その夢を叶えてくれただけでも、とてつもなく有難いことだ。

その上、何度も書いているように、アクション性においては日本トップクラスなのは間違いない。それ以外の演出や映像の美しさ、迫力においてもずば抜けたクオリティの作品となっている。

 

漫画の映画化といえば"コレじゃない感"が漂う原作レイ◯の作品がお決まりだ。

だが、この映画るろうに剣心シリーズは、そのような心配を見事に裏切ってくれた。これほどの物を作り上げた関係者の努力には脱帽だ。本当に素晴らしい仕事をして頂いたと思う。

映画を観たことで改めて「るろうに剣心」という作品の素晴らしさについて考える機会が持てた。そして、さらに好きになることができた。このような貴重な機会を提供してくれた関係者の方々に心からお礼を述べたいと思う。

 

wwws.warnerbros.co.jp

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