世界を救う読書

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若手研究者の育成をノーベル受賞者の賞金に頼るケチな国家に未来はない。

みなさんとっくにご存知かと思いますが、京都大高等研究院の本庶佑教授がノーベル医学生理学賞を受賞されました。まずはおめでとうございます!!

受賞理由ががん免疫療法につながるたんぱく質の発見ということで、世界でもがん患者の多い日本にとっては二重の意味で喜ばしいことではないでしょうか。

 

その本庶教授が日本が基礎研究への投資をおろそかにしていることに懸念を示していらっしゃるようです。曰く

 

「基礎研究を体系的に長期的展望で支援し、若い人が人生をかけて取り組んでよかったと思えるような国になるべきだ」

 

日本の科学技術政策について「立案段階で依然として昔の発想から抜けていない。今もうかる分野に資金を投じてもしかたがない」と論じた。

 

とのこと。

2016年同じくノーベル医学生理学賞を受賞した大隅良典・東京工業大栄誉教授も受賞時に同様の指摘をされていました。

 

国立大の運営費交付金が減り、政府の助成対象として産業や医療への応用研究が重視されている現状について「とても危惧している」と指摘。「技術のためではなく、知的好奇心で研究を進められる大事な芽を大学に残してほしい」と、基礎研究の充実を訴えた。

 

また、ちょっと話は変わりますが、中部地方在住の方にとっては有名人である“つボイノリオ”さんという方がパーソナリティを務めるラジオ番組「つボイノリオの聞けば聞くほど」という番組があります。

その中でつボイノリオさんが仰っていたのですが、今の大学教授に必要なのは「営業力」なのだそうです。

つボイさんも「馬鹿言うな! 学者なんだからどれだけ学問ができるかだろう!」と仰っていました(ちょっと言い回し違うかも。ごめんなさい)。でもそれが現実のようで、若い研究者をどのように食わせていくか(つまり研究予算を取れるかどうか)が今の教授に最も求められていることなのだそうです。

 

これは以前の投稿にも書いたのですが、現在大学に国から補助される予算には「一般運営交付金」と「特別教育研究経費」の二つがあります。前者は大学の一般運営費として広く振り分けられるのですが、後者は大学間で獲得に向けて「競争」をさせ、その結果に応じて分配するシステムになっています。いわゆる「競争原理」が持ち込まれている訳です。

そして、その競争の中で各大学の研究者たちが、文部科学省の官僚達やその他の資金管理機関にプレゼンをすることになっており、いかに上手くプレゼンをして予算を獲得できるかに大学関係者はあくせくしているようです。

しかも、「大学」として予算を勝ち取ったあとには、「大学部内での予算の取り合い」が始まるそうで、正しく“競争に次ぐ競争”。そちらのプレゼンや資料、申請書準備に時間を取られるため、本分の研究がおろそかになっているとのことです。

 

「限られた予算を“より効果の高い分野”に集中的に投資する」という名目の元、大学の研究者に営業努力をさせ、本来研究に使うべき時間と労力を削らせているのです。

そして、そのような競争に勝ち抜く「ビジネスセンス」や「プレゼン能力」というおよそ本来の学術研究とは関係のない部分に多大な労力を割くよう大学に強制する(無言の圧力です)。そのような中でも「目に見える効果」を示しにくい基礎研究部門は、さらにどんどん予算を削られていく・・・・という訳です。

 

本庶教授がインタビューの中で「自分が研究をしていたタイミングは日本の科学研究費が伸びる時期に合っていた。ずっと研究を支援されてきた」と語っておられるように、今はまだこのような研究に邁進して来られた方が一線で(と言ってもかなりご高齢ですが・・・)で活躍していらっしゃるので、今回のように日本人からノーベル賞受賞者を輩出できています。

しかし、このような方々が一線から退かれたあと、例えば10年後、果たして日本の学術研究はどのような状況になっているのでしょうか?

 

 

本庶教授の基金設立という行動は本当に素晴らしいと思います。個人の基金だから実現できることというのも確かに存在するでしょう。しかし、日本の将来をどのような方向へ導いていくかは、本来国家が戦略的に計画していかなければなりません。特に日本のような「人こそが資源」というような資源小国ではならおさらです。

このような研究分野への投資は、国家が率先して行わなければなりません。研究者の側から予算不足を指摘される時点でそもそも恥ずかしい状況だということを、日本政府は改めて考え直すべきではないでしょうか。

 

今回も長文を最後までお読み頂きありがとうございました😆

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