世界を救う読書

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保護主義が貿易戦争を引き起こすというのは都市伝説に過ぎない。

トランプ政権が保護主義的政策を次々と打ち出していることで、それに対応してカナダやEUが対米関税を引き上げたり、WTOに提訴する準備を始めるなど、活発な動きが見られます。

これについて、保護主義が貿易戦争を引き起こしているという論調で語られることが多いですが、それは必ずしも正しくなく、むしろ物事を単純化し過ぎているように思います。

 

実は「このような保護主義が貿易戦争を引き起こす」という論陣が張られたのは今回が初めてではありません。

今より前の第一次グローバリズムの時代の末期にも同じようなことが言われていました。そのような論調に対して、ある経済学者が敢然と立ち向かいました。

 

その人の名は、カール・ポランニー。

彼はその主著「大転換」の中で、このような分析を試みています。

 

19世紀末から20世紀初頭にも現代と同じくらいグローバリズム化が進められていました。その中で現代と同じく所得格差が拡大し、社会共同体が「悪魔のひき臼」に掛けられて砂粒の個のようにバラバラにされました。

20世紀の初頭にそれが極端な状態にまで突き進み、グローバリズムの中で敗者として社会から放り出された人たちが徒党を組んで、グローバリズムから自分が所属する社会共同体を守るために反抗運動を起こした。

第一次大戦後に活発になったファシズム社会主義運動も、ポランニーによればこの一環だったのです。

 

ポランニーの主著「大転換」はかなりの大著ですので、本当はもっと精密な理論が展開されますが、ざっくり言うとこんな感じだと思って頂いて良いと思います。

 

そして、第二次大戦後はポランニーの指摘の影響もあり、極端なグローバリズムに陥らないよう、それぞれの国々が節度のとれた相互交流の中で貿易を行い、相互発展を遂げて行ったのはご存知の通りです。

しかし、その喉元過ぎればなんとやらで、世界は再び自由主義に基づくグローバリズムの流れへと移っていき、今の状況を生み出してしまったのです。

 

ポランニーが指摘し、現代のグローバリゼーションの中で我々が経験したように、行き過ぎた自由貿易により共同体を支える所得再分配のシステムを破壊します。どのような競争でも勝者がいれば必ず同じ数、あるいはそれを遥かに上回る数の敗者が生まれる。自由主義経済ではアメリカや現在の日本でも見られるように必ずその格差が拡大してしまう。

本来であれば、その勝者から所得を適正に徴収し、敗者へと再配分を行わうことで社会の安定化が図られるはずですが、自由主義社会では“自己責任”という言葉の下、その格差の拡大をさらに助長されます。

 

その状態が極端まで推し進められれば、敗者となった集団は失ったもの(所得だけでなく、自分たちの共同体。そこで暮らした思い出など)を取り戻すために自己防衛に向かってしまうのは必然です。

 

すなわち、かつてカール・ポランニーが指摘したように、1930年代に起きた「大転換」と同様、今回の保護主義とそれに伴う貿易戦争という「大転換」も、保護主義ではなく自由主義イデオロギーに問題があったと見るべきです。

 

もしかしたら、貿易戦争にまで発展しつつある現状において、「今さら何が本当の原因だったかなんて考えても仕方ない。そんな事より今目の前にある事態にどう対応するかの方が重要だ。」という意見もあるかもしれません。

確かに元の原因が何だったのかを解明するだけで全てが解決する訳ではありません。しかし、何が原因だったのかを理解しなくては具体的な対応策を誤る危険性がありますし、仮に目の前の状況を乗り越えたとしてもまた同じような事態を呼び起こす危険があります。

 

それは職場でのストレスで精神に不眠症になってしまった人に「とりあえずこの薬を飲めば治るから」と睡眠薬を処方するだけで良いのか?という話と同じです。

当面は眠れるようになるかもしれませんが、職場でのストレスが解消されなければ根本的な解決は見込めませんし、逆に薬の副作用によってさらなる変調を引き起こす可能性すらあります。

 

迂遠のように思われるかもしれませんが、今の状況を打開し、今後同じような状況を引き起こさないためにも、今起きつつある貿易戦争の原因が何なのかを改めて問い直す必要があると思います。

 

今回も長文を最後までお読み頂きありがとうございました😆

 

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