世界を救う読書

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パリの次はハンガリーでも大規模デモ。世界で吹き荒れる反グローバルの嵐。

先月以来世界を騒がせているパリでの暴動"黄色いベスト運動"に続き、今度は東欧のハンガリーの首都ブダペストにて、1万人以上が参加する暴動が発生しています。

 直接の原因はハンガリー議会が可決した、企業が従業員に対して年間400時間までの残業を求めることを認め (以前までは年間250時間が上限だった)、さらにその残業代の支払いを3年間引き延ばすことができるという法案。

年間400時間と言えば、月20日間働いているとすれば一日に1.5時間ほどですので"日本人の感覚"的にはそれほど大きな残業だとは思えません。あくまで日本人的には、です。ですが、流石に残業代の支払いを3年間引き延ばせるというのは異常でしょう。そりゃ、記事にあるように「奴隷法」と言われても仕方ありません。

 

もちろん原因はそれだけではなく、政府が新たに行政裁判所という存在にもあります。行政裁判所というのは、最高裁判所を頂点とする既存の裁判所システムとは別に設置。政府が関わる訴訟を扱い、法相が判事指名など直接管轄するなどまさに「政府のための裁判所」とも言えるものです。

一応、近代国家の根幹をなしているはずの「三権分立」の原則を完全に無視したものです。このような一連の政府の強権的な政策に対し、数千人が法案撤回などを求める声明文を放送させようと公共放送まで行進。警官隊と衝突し、デモ隊に向けて催涙弾を発射するなどの事態になったようです。

 

パリに続き、今度はハンガリー。あるいはもっと遡ればイギリスのブレグジットもそう、ここ数年の欧州の混乱ぶりは異常です。一体欧州では何が起きているのか?

それを考える上で興味深いのは、この暴動やデモを起こしているのは従来のような「右派」とか「左派」、「保守派」「改革派」などの対立軸を超えた様々な立場の人たちが加わっていることです。

彼らがどのような主張の下に行動を起こしているのかと言えば、それは「反グローバリズム」です。

 

グローバリズム反グローバリズムのうなりは過去にもあった。

実は今回と同じような「グローバリズムの拡大」そしてそれに対する「反グローバリズム」の動きという流れは以前にもありました。それが19世紀後半から20世紀初頭にかけて起こったグローバリズムの拡大と、それに対抗する反グローバリズムの動きです。

 

自由貿易

 

というと2度の世界大戦を経て、そのような惨禍を二度と引き起こさないために人類が進歩してきた歴史であると考えている方も多いのですが全然違います。

実は19世紀後半から20世紀初頭にもかけても、貿易や国際投資、そして移民の移動が現代よりも活発に行われていたのです。むしろ統計的には現代よりも当時の方がより極端なグローバル化が進んでいたとすら言われます。

 

これは20世紀前半に活躍したカール・ポランニーという経済学者の主著「大転換」に詳しいのですが、19世紀後半に世界はヒト、モノ、金の移動の自由化という非常に行き過ぎたグローバル化を成し遂げていました。そのグローバル化の中で人々の生活を守っていた様々な共同体が、バラバラに崩されていきました。自由競争という波にさらされて、個人が自分の利益しか考えず行動し、お互いに支え合う共同体が崩壊していったのです。

 

それはグローバル化の流れの中で、資本を持っている人はより稼げるようになり、資本を持っていない人は劣悪な条件の下で働かざるを得なくなってどんどん貧困化している現在の日本を見れば分かりやすいのではないでしょうか?

自由競争、勝ち組と負け組、そして自己責任という大義名分の下、社会保障に割かれるお金はますます削られ人々の心はすさんで行きます。そして、立場の違う人間がお互いの足を引っ張り合う・・・・この状態をカール・ポランニーは「悪魔のひき臼によって共同体がすり潰され、個人がバラバラになる(アトム化)」と表現したのです。

 

そして、20世紀初頭にはそのようなが「悪魔のひき臼による共同体の破壊」が限界を超えて、グローバル化の波になぎ捨てられた人々が自分たちを守るために協力し、グローバル化に対抗するための運動をはじめました。現代社会ではそういった現象を「ポピュリズム」と表現して非難していますが、ポランニーによればそれは共同体という社会に暮らす人々を守るための「社会の自己防衛本能」だといえるのです。

 

例えば、悪の権化としてのイメージの根強いファシズムさえも、ポランニーによればそのような共同体を破壊された人々が自分たちの生活や価値観を守ろうとする戦いの帰結にしか過ぎず、そもそもの原因はそれ以前にある行き過ぎたグローバル化にあったといえるのです。

 

暴力が正しいとは言えない。しかし、それしか手段がないほど追い込まれた背景に目を向けなければ根本的解決はできない。

トランプ大統領の誕生、イギリスのEU離脱、パリでの黄色いベスト運動、そして今回のハンガリーでの暴動・・・、これらを世界中のメディアは伝えるような単純な「ポピュリズム」という考え方で捉えていては、これらの問題はいつまでも解決しません。それどころかますます世界中に広がっていくことでしょう。

現在の世界で起こっている動きは、その表層部分の現象だけ捉えていてはいけません。

そのどれもが、右派とか左派とかいった単純な政治哲学を超えた"グローバル化によって破壊された共同体や秩序を取り戻そうとする社会の防衛本能"だと考えなくては、その真の原因を捉えそこねることになります。

そして、真の原因をつかめなければ決して正しい解決策を見出すこともできないのです。

 

TPP11、日欧EPAなどの貿易協定を結ぶ度にメディアが必ず口にする「自由貿易」という言葉。その言葉が本当は何を意味し、今の現実に何をもたらしているのか。それを真剣に考え直さなければならない時が来ているのではないでしょうか。

 

 今回も長文を最後までお読み頂きありがとうございました😆

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