世界を救う読書

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キャッシュレス化と引き換えに売り渡される個人情報

2019年10月の消費増税に合わせて実施されているポイント還元で注目を集めているキャッシュレス化。PayPay(ペイペイ)やLINE Payなど、少しずつ日本でも拡大してきたキャッシュレス化の流れが強くなっていますが、一方で「個人情報の抜き取り」などの懸念が多いのも事実。

そこで今回はこのキャッシュレス化の実情とその背後にある潮流を考えてみたいと思います。

 

[目次]

 

日本のキャッシュレス決済比率は後進国並み?

いきなりですが問題です。

次の数字は一体何を表しているでしょうか?

 

韓国: 89.1%

中国: 60.0%

カナダ: 55.4%

アメリカ: 45.0%

日本: 18.4%

 

日本がダントツで低い数字になっていますが、実はこれは民間(特に個人)におけるキャッシュレス決済の割合を計算した、「キャッシュレス決済比率」というものです。

 

この数字が表すように日本におけるキャッシュレス化は世界的には遅れをとっている状況です。最近このような「日本のキャッシュレス後進国」が報道でもよく流れるようになりました。特に外国人観光客(・・・・まぁ、ほとんど中国人ですが)が日本に来て現金で支払わなくてはならないことに不都合を感じることが多いようで、「日本もキャッシュレス化が必須!」と騒がれるようになりました。

 

私は基本的に「便利の裏には影がある」と思っていますので、キャッシュレス化を迎合するつもりはさらさらありません。ただ「敵」を知らなければ戦うことはできません(笑)。

という訳で、このキャッシュレス化の現状について面白い本を見付けましたので、今日はその読書レビューを投稿したいと思います。

 

キャッシュレス覇権戦争

その本がこちら。

岩田昭男著「キャッシュレス覇権戦争」です。

キャッシュレス覇権戦争 (NHK出版新書 574)

キャッシュレス覇権戦争 (NHK出版新書 574)

 

 この本の良いところは、キャッシュレスが進んでいる国の現状をレポートし、その利便性に説明しつつ、ちゃんとその危険性に言及することも忘れていないところです。

比較的中立的な立場で、キャッシュレス化の良い面と悪い面を丁寧に説明してくれていますので、キャッシュレス化の入門書としてはとても良い本だと思います。文体も読みやすいですしね。

 

キャッシュレス化のメリットとデメリットをおさらい

まず、キャッシュレス化のメリットとデメリットを軽くおさらいしておきますと

 

<メリット>

・現金を持ち歩く必要がなくなる

・ポイント還元などさまざまな恩恵が受けられる

・記録が残るのでお金を管理しやすくなる

・現金を製造したり、流通させるためのコストを削減できる

・外国人観光客の決済がやりやすくなり"インバウンド”による経済活性化を図れる

 

<デメリット>

・紛失の恐れがある(現金も落としたり、盗まれる可能性がありますが、キャッシュレス化された方が被害額は大きくなる)

・お金の管理は技術的にはしやすくなりますが、目に見えないデジタルデータなので使いすぎてしまう傾向が強まる

 

などです。

そして、この本で著者が一番問題視しているのは、資産がどの位あるかや、お金をどのように使っているかといった「個人情報」が民間企業や政府にすべて漏れてしまうことです。

最近はこの個人情報のことを「ビッグデータ」というマーケティング用語で呼ぶことで、「個人情報の漏洩」というニュアンスを弱めようという動きがありますが、どのような言葉で表現しようとも、キャッシュレス化が個人情報の漏洩であることには変わりません。

 

多分そんなことは言われなくてもみんな分かっていることだと思います。

ではなぜそれでもキャッシュレス化を推進しようとするのでしょうか?

 

キャッシュレス先進国中国の現状

さて、ここで急に話が変わりますが、みなさん「ゴマ信用」というものをご存知でしょうか?

これはアリペイという中国の会社が提供しているサービスで「芝麻(ジーマ)信用」というものの通称です。

クレジットカードなどのデジタルキャッシュを使うと、どの人がどのくらい使ったのかの履歴が残ります。それをスコア化(点数化)して、その人の格付けを行うのです。クレジットとは「信用」(信用に基づいてお金を貸し出す)ということですから、「ゴマ信用」ということです。

 

これの凄いところ(恐いところ、とも言う)は個人情報を5つの項目に分けて点数化し、その人間を点数でランキング化することです。

その項目とは

 

1) 年齢、学歴、職歴など

2) 返済能力に関する情報

3) 返済履歴情報

4) 人脈 (リアルとSNSなどのネット上の交友関係)

5) 日常の行動や趣味嗜好

 

これにそれぞれ5段階で点数を着けます。そうすると、その人をランキングづけできる分けです。

このランキングが高まると、キャッシングの上限が上がるのはもちろん、自動車ローンの利率が下がる、賃貸住宅で敷金が無料になる、就職の時に有利になるなどなど・・・さまざまな恩恵が受けられるとのこと(P123 「キャッシュレス先進国に躍り出た中国」より)

 

そうなると皆が競ってスコアを少しでも高くしようとし始めます。

そのためには税金や公共料金を滞納しないなどに加え、スコアが高い人を友人にする、知人を増やすなどの方法がある一方、スコアが悪い人と友人関係にあると自分もスコアが下がるなどということが起こります。

つまり個人的な人間関係が点数化され、ゴマ信用という点数を高めるためにどんな人と付き合うのかを選別するようになっている。それが中国の実情だということです。

 

このように中国ではキャッシュレスやデジタル化による利便性を極限まで推し進めることで、「個人情報の漏洩」を恐れるどころか、むしろ積極的に”個人情報を売り渡したい!”と考えるほどの状態になっているようです。

さらに言えば、「どれだけ個人情報を売り渡したか?」で周りの人たちや国からの評価が変わることで、「個人情報を売り渡さなければ生きていけない」状況が作り出されていると言えるでしょう。

 

デジタルデータ化をなぜ拒めないか?

日本人はいまのところ中国に比べ、個人情報の取り扱いにかなり慎重な状況だと思います。しかし、少し前に100億円還元キャンペーンで騒ぎになったPayPayや、LINE Payなどキャッシュレス化の波は確実に押し寄せていて、「キャッシュレス」の利便性と引き換えに私達のスマホなどのデジタル機器から個人情報はどんどん抜き出されています。

もちろんそれはキャッシュレス化だけではありません。

今ではみんなが誰でもやっているSNSやグーグル検索などもそうです。

いつ、どこで、何をやったのか、どんな交友関係があるのか、どんな趣味嗜好の持ち主か、すべての個人情報が日々抜き出されビッグデータとして”活用”されています。

 

一応建前上はそのようにして入手した個人情報を他者に売り渡したり、悪用したりしないとどこの企業も謳っていますが、そんなことが口約束にしか過ぎないことは誰もが感じていることだと思います。

それでもキャッシュレス化を拒否できないのは、恐らく

 

・そのように悪用される実感がない

・目先の利便性がすさまじく高い

・先端技術を拒否したら古臭い、遅れたヤツだと思われそう

 

というところではないでしょうか。

特に最後の「先端技術を拒否したら古臭い、遅れたヤツだと思われそう」という、先端技術を拒否することの後ろめたさ(?)はかなり強いのではないかと思います。

「今どきそんなこと言ってるの?」とか「もうそんな時代じゃない」とか、「みんなやってるよ。」とか言われるとなかなかそれに抵抗し続けるのは精神的に辛いものがあるのは事実です。

 

そして、そういう後ろめたさを上手いこと突いてくる「キャッシュレス社会の利点」の一つが犯罪抑止への活用です。

 

アメリカで進む犯罪予測システム

 

 

確かに犯罪率を低く抑えられるということは、相当なメリットだと思います。「安全のためなら多少個人情報が流れても・・・・そういう時代か・・・」と受け入れてしまう気持ちも分かります。

ただ、犯罪防止というコインの裏側にあるのは「監視社会の実現」でもあります。

このことについての次のような著者の指摘は実に鋭いと思います。

 

政府機関による個人監視は、「テロリストなどの犯罪者を対象にしている」という大義名分が掲げられ、多くの人は、「私はやましいことなどしてないので関係なく、監視が強化されてもいい」と考え、大きな批判が起こりにくくなっている。

しかし、”やましいこと”の内容を決めるのは監視機関の方であり、普通に暮らしていた人がある日突然、やましいことをしている人間にされてしまうこともあるのだ。

(本書P187より抜粋)

 

安全で平和な暮らしのために十分な個人情報を提供し、自分は安全だと信じていたら、すぐ後ろに、自分を捕まえる監視者が手錠を持って立っている・・・そんな社会がもうすぐそこまで来ているのかもしれません。

 

今回も長文を最後までお読み頂きありがとうございました😆

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