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噂話で病院がつぶれる??「予言の自己成就」が起こす病院閉鎖

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突然ですが質問です。
「予言の自己成就」という言葉をご存知でしょうか?
これはアメリカのマートンという社会学者が提示した社会学の用語で、「たとえ根拠のない予言(=噂や思い込み)であっても、人々がその予言を信じて行動することによって、結果として予言通りの現実がつくられるという現象のこと」です (「コトバンク」より)。

昔から日本で言われている「言霊信仰」みたいなものですね。

「どうせ私は頭が悪いから成績なんて上がらない」というネガティブ発言をしていると本当にその通りになる。

あるいは逆に「褒めて伸ばす」とか「ポジティブシンキング」によって、良い結果を導き出せる考え方も、この予言の自己成就の1つです。

 

ただ、このように言うと「単なる思い込みでしょ」とか「現実はそんな風にはならないって」と仰る人もいるかもしれません。ですが、案外そうとも言い切れないところがこれの恐いところでして・・・。実はこの"現代の言霊"によってあなたの掛かりつけの病院が潰れてしまうかもしれないのです。

今回はそんなちょっと恐い話(?)をしてみたいと思います。

 

予言の自己成就とは?

この「予言の自己成就」というのが何なのか? 分かりやすいのが、中野剛志先生の本「全国民が読んだら歴史が変わる。奇跡の経済教室」に書かれている次の二つの例です。

・予言の自己成就で銀行が倒産? 

とある「A銀行」という銀行は普通に健全な経営をしていました。倒産するような危険な融資は何ひとつやっていません。

ところがある日突然「A銀行の経営がヤバいらしいぞ」という根も葉もないが流れます。すると、その噂を聞きつけた人たちが「A銀行に預金していたら不味いんじゃないか・・・」と心配になって預金を引き出して、別のB銀行に移し始めます。 

そうすると個人だけではなく取引先の会社も「A銀行から口座を移す人が増えているらしい。A銀行と取引していたらヤバいかもしれない」と心配になり、取引会社もA銀行から別の銀行に移り始めます。

その結果、A銀行の取引が激減して経営が立ち行かなくなり本当に倒産してしまいました。根も葉もない噂話が本当に現実化してしまったということです。

・予言の自己成就で黒人の成績が悪くなる?

かつてアメリカ社会には「黒人は知能が低い」という偏見がありました。言うまでもなく、この偏見は誤りであり、黒人だから知能が低いなどということはあり得ません。

ところが、こういう偏見のあったアメリカ社会では「知能が低い黒人には、教育を受けさせても無駄だ」という思い込みがあったため、黒人たちはまともな教育を受けさせて貰えませんでした。

教育をうけていない黒人は、知的にふるまうことができません。それを見たアメリカの人々は「黒人は知能が低い」という話を一層深く信じるようになってしまいました。 

 

現代の日本でも予言の自己成就は頻発している

冷静に考えればこのような事はあり得ません。しかし、実際に現代社会でもこのような事は平気で起こります。

1970年代のオイルショックの時には中東戦争によって石油の供給が滞ることを恐れた世間で「トイレットペーパーがなくなるぞ!」という噂が広がり、実際はそんなことはあり得ないのに皆がトイレットペーパーの買い占めに走り、本当にお店からトイレットペーパーが消えました。

また、バブルの頃はゴルフクラブの会員権が投機の対象となり、単なる「ゴルフ場でゴルフができる」というだけの会員権が全国平均で4388万円(!)にもなりました。

 

最近で言えば「タピオカブーム」もそうでしょう。

もちろん、中には本当にタピオカが好きな人もいるでしょうが、ほとんどの人は「今、タピオカが大ブーム!」とテレビやSNSで言われると、「インスタ映え」のためにタピオカドリンクのお店に並んで、写真だけ撮ったらほとんど飲まずにポイ捨て。

別に大して好きでもない人たちが大騒ぎして、実際にタピオカブームが起きてしまうのです。

 

「言霊」などというと古い迷信のように思われがちですが、現代人もどっぷり言霊信仰にハマっているのです。

 

厚労省の誤解たっぷりの情報発信

とは言え、タピオカブーム程度で済む話なら別に良いのです。

ですが、それが実際に自分の命に関わるかもしれないということになればどうでしょうか?

先月末に厚生労働省が診療実績の少ない病院を“コストカット”のために統廃合するという方針を発表しました(正確には統廃合に向けた検討を開始)。

この時は「公立病院」だけでしたが、なんと民間の診療実績も調査/公表すると言い出したのです。

厚生労働省は30日、診療実績の乏しい全国の公立・公的病院の再編・統合を巡り、民間病院の診療実績データも近く公表する方針を固めた。データを比較することで、26日に名称を公表された424の公立・公的病院が民間で担えない診療を行っているかなど、地域の医療体制の見直しに向けた本格的な検討を促す。

(中略)

厚労省によると、再編・統合には、病院の統廃合だけでなく、病床数を減らすといった対応も含まれる。

 

正直頭が悪すぎてどこから突っ込んで良いのやら・・・という感じです。

 

予言の自己成就で病院が潰れる?

皆さんにお伺いしたいのですが、皆さんが何か体の不調を感じて初めて診療を受ける時というのはどうやって病院を選びますか?

風邪をひいたとか、転んで足首をひねったという程度であれば、近場の病院で済ませてしまうかもしれません。ですが、ずっと胃の痛みが取れないとか、片頭痛が収まらないとか、大きな病気かもしれないと思うような不調であれば、ネットや周りの人の口コミを探って、ちゃんと信頼が置けそうな病院を探すのではないでしょうか。

医者にも得意、不得意があり、腕の良い人もいれば腕の悪い人もいる。

そんな中で医者選びで失敗したくない、失敗したら命に関わるかもしれないと思えば、必ず何かの情報を元にして慎重に選ぶはずです。

つまり、ネットだろうが実際のコミュニティだろうが、病院選びにおいては「口コミ」というのは非常に重要な要素なのです。

 

逆に言えばちょっとでも「あそこはヤブらしい」「潰れるかもしれないらしい」という情報が耳に入れば、ほとんどの人はその病院を選ばなくなるわけです。たとえそれが単なる噂話や誤解に過ぎなかったとしても。

それほど口コミのネタになるような情報というのは、病院にとっては重要な要因となるのですが、それをこれほど軽率に厚労省が世間に開けっ広げにしてしまうのは、ちょっとどうかしているとしか思えません。

 

たしかに、医療ミスや医療事故を引き起こした病院だったり、それを隠蔽した病院だったりすれば仕方がないことでしょう。しかし、今回の物は単なる診療数や近くに同じような病院があるかどうかといった話であり、その病院の診療に関わる実力の評価ではありません。

それにも関わらずこのようなデータを公表し、その上統廃合を検討するなどということを述べてしまえば、それは「あの病院は潰れるかもしれない」という誤った憶測を流すことになりかねません。

そして、そのような誤った情報により「予言の自己成就」が起これば、その病院は実際につぶれてしまうかもしれないのです。何の落ち度もないにも関わらず。

 

病院は東京から破綻する

医師の上昌広氏の「病院は東京から破綻する」(朝日新聞出版)によると、人口10万人当たりの医師数は、東京では323人ですが

埼玉県 159人

千葉県 189人

神奈川県 209人

で、これは南米や中東並の少なさなのだそうです。

そして上氏はこのようにも書いています。

「これから首都圏の医療崩壊はますます加速します。大学病院や私立病院が経営難のために倒産し、看護師不足のため病棟が次々と閉鎖されるでしょう。高齢医師が増え診察が難しくなり、待遇の悪い首都圏の病院から若手医師が流出するでしょう。」

 

誰も喜んで病院にかかる人はいませんし、健康であれば普段どこにどんな病院があるのかなんてそれ程気にしない人がほとんどでしょう。

しかし、それは一旦大きな病気にかかれば話が変わります。近くに信頼できる医者がいるかどうかは生命に直接関わるケースも有りえます。ましてや日本のような災害大国であれば、今日健康だからと言って明日もそうだとは限りません。あなた住んでいる場所で大地震が起こり、大量の負傷者が出る可能性もあるのです。それが日本という国なのです。

 

そのような国で「診療実績が少ないから」などという理由で、病院の統廃合を進めるのがどれだけ愚かなことか。

大地震によって電話もつながらない、道路も寸断されて車で移動できない。

そんな状況で危険にさらされている負傷者に「車で20分以内に病院がありますからそちらへ行ってください」などとでも言うつもりでしょうか?

 

「地域ごとに効率的な医療提供体制を構築していくため」などと持って回った言い方をしていますが、結局これもありもしない財源不足問題で勝手に自分たちの手足を縛っている「緊縮財政」の一環なのです。

要は「カネ、カネ、カネ。カネがねーからだよ!」ってことです。

 

「お金がないから病院を閉鎖します。何かあっても病院がない所に住んでいるあなたの自己責任なので諦めて死んでください。」

そんなことを言うような国に果たして国家運営を担う資格があるのでしょうか?

ここでは詳細は省きますが、日本円という独自通貨を持ち、なおかつ外国からの借金がない日本のような国家には財源の問題などというものは存在しません。

ギリシャやアルゼンチンのような国が財政破綻をしたのは、ユーロやドルという自国通貨ではないお金で借金があったからです。日本とは全然話が違います。

 

そんな恵まれた国である日本でありもしない財源不足問題で、国民の健康な生活に重要なインフラである病院をリストラしようなどという行為は愚の骨頂なのです。

 

今回も長文を最後までお読み頂きありがとうございました😆

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