世界を救う読書

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米中対立の狭間で日本に何ができるのかを問う。橋爪大三郎著「中国vs米国」。

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昨年末に飛び込んで来たとあるニュースが世界を騒がせた。

中国のGDP国内総生産の規模が2028年にはアメリカを上回って世界1位になるという予測をイギリスの民間の調査機関を発表したのだ。

もともと同機関は中国が米国を上回る時期を2023年と予測していたが、新型コロナの騒動により5年早まる計算だ。

さらに、別の機関の調査では2050年には中国のGDPは米国の2.7倍になると試算している。

これらは民間の調査機関のものだが、当然米国自身も同様のシミュレーションをしていることは想像に難くない。

トランプ元大統領以来、米中対立が先鋭化してきたのは周知の事実だ。

しかし、トランプ氏個人の資質によるものではなく、覇権国の地位を守ろうとする米国という国家戦略に基づくものであり、実際バイデン新大統領になってからも対中国政策は厳しさを増している。

 

地理的に米国と中国の間に立たされている日本も、当然この状況とは無関係ではいられない。

双方ともに私たちの生活レベルにまで非常に強い影響力を持っており、まさにこの二国の対立は国民生活に直結する問題だ。

では、私たちはその2大国に動向に対してどれだけの関心と知識を持っているだろうか?

そもそも中国共産党とは何か?

中国は資本主義なのか?

なぜ中国がここまで巨大な国になったのか?

米国と中国はなぜ対立するのか?

「何となくのイメージはある。でも、改めて問われると説明が難しい。」そんな人がほとんどではないだろうか。

だが、”イメージ先行”で物事を見ていては、中国という国を理解することはできない。理解できなければ来たるべき判断を誤ることにもなりかねない。

そこで今回紹介したいのが、橋爪大三郎氏の「中国vsアメリカ −宿命の対決と日本の選択−」だ。

本書では政治や経済の制度といった中国の国の外郭を描きながら、現在の中国という国の成り立ち、そしてそれを支える思想とは何かといった思想的な問題を分析する。

また、米国を支える西欧的価値観の根本を宗教学的な視点から眺め、

「なぜ米国と中国の対立が避けられないのか」

「避けられないのであれば、日本はどうするべきなのか」

という日本の戦略的な課題にまで踏み込んでいく。

 

著者紹介

著者の橋爪大三郎氏は1948年生まれの社会学者。東京工業大学名誉教授を務める。

宗教や哲学、社会学などに関する膨大な知識を元に、米国や欧州、中東、そして中国など様々な国の文化や思想・哲学の分析を得意としている。

「世界がわかる宗教社会学入門」(ちくま文庫)、「ふしぎなキリスト教」(講談社現代新書)など、一般向けの著作も多数あるが、どれも思想的な深い話題を分かりやすく丁寧な説明で解説が魅力だ。

さて、本書では米中の軍事衝突のシナリオなどを具体的に展開している部分もあり、米中の対立がよりリアルな形で想像できる内容である。

ただ、一番興味深いのは、中国(あるいは中国共産党)と米国の行動原理を、歴史や文化、思想をもとに分析している点だ。

共産党が中国支配を正当化するロジック

中国とは中国共産党が絶対的な権力を持っていることは広く知られている。

しかし、中国共産党としては「支配」しているのではない。彼らは「人民を代表している」のである。そしてそれは人民のためである。

なぜなら、共産党は世界を通底する真理を理解しているからである。

真理を理解していない人民は、様々な局面で間違いを犯す可能性がある。

だから、真理を理解している共産党が人民を代表し、人民を指導することが人民を幸せにすることに繋がる。

簡単に言えば、これが中国共産党が中国を”代表”しているロジックだ。

 

神を信じる国と信じない国の対立

しかし、これは米国の価値観では理解ができない。

なぜなら米国は「神が支配する国」だからである。

米国は神が支配する国であり、それが正しいと信じている。だから、中国のような「人が人を支配する国」という価値観は全く受け入れがたいのである。

 

米国が「神が支配する国」だという点は説明が必要であろう。

確かに米国を実際に動かしているのは「選挙」で選ばれた人たちである。しかし、著者によればこの選挙というシステムは”神の意志”を具現化するための方策なのだ。

米国の価値観を理解する上で非常に重要なポイントなので、少し長くなるが本書の説明を引用しよう。

政府のポストにつく人間(政府職員)を「選挙」で選ぶ。これがアメリカで始まったやり方だ。

「選挙」で選ばれた人間は、どんなに大きな権力があっても、任期が来たら退任する。

「選挙」が彼(彼女) の統治を正当化する。「人が人を支配する」のだが、その支配の根拠は「選挙」である。「選挙」→「人」(支配) → 「人」、であって、人を支配するのは「選挙」なのだ。

「選挙」は人ではない。人々が集合的に表す「意思」」である。一人ひとりは、人間の思いで投票するかもしれない、けれども、人々が真剣に投票するなら、そこに「神の意思」が現れる。選ばれた人間は、神によってそのポストにつけられた、と考える。聖書にそう、書いてあるわけではない。でも、神がこの世を支配しているのなら、「選挙」も支配しているに違いない。「選挙」に従う民主主義は、神に従う道なのだ。

(本書P314)

 つまり、民主主義とは選挙を通じて神の意思を反映するシステムなのだ (少なくとも米国においては)。

だから、神の意思を反映せず”人が人を支配する”中国のシステムは米国には全く受け入れられないのである。

著者はここにこそ米中対立の根源的問題があるという。すなわち「米中対立とは、神を信じる国と信じない国の対立」なのである。

 

実は米国自身がこの決定的な違いを理解していなかった。だからこそ、WTO (世界貿易機関)などの自由主義システムに中国を受け入れ飼いならそうとした。

資本主義、自由主義の洗礼を受ければ中国も変わるはず。なぜならそれこそ神の意思を反映させた唯一絶対の方法なのだから。米国、そして欧州諸国もまた無邪気にそのように信じていた。

しかし、そうではなかった。

資本主義、自由主義をも巻き込みながら、中国は民主主義ではない別の方針をさらに強化し、米国をも抜き去ろうとしている。

ここに来てようやく米国は自らの認識が甘かったことを理解したのだ。

中国と米国の対立はもはや決定的となっている。大統領がバイデンになろうが、その方針は変わらない。

 

日本に残された選択

では、そのような米中対立が決定的となった状況で日本は何ができるのだろうか。

残念ながら”無い”

著者は言う。

「日本に、米中対決の行方を左右する力はない。むしろ、米中対立のあおりを喰らって、翻弄されることになろう。」と。

中国の軍事費は毎年増加の一途をたどり、2020年には日本の4倍以上に達している。それがもう10年以上続いている。もはやこの差が埋まることは決してない。

さらに、冒頭で述べたように2028年には中国のGDPは米国を追い越す見込みであり、当然軍事費も同様である。

日本が単独で中国と戦争をしても勝つ見込みは全くないし、より強力になった中国に対してアメリカが日本のために戦ってくれる保証はどこにもない。

残念ながら、もうどうしようもない。

こうなることが分かっていて、日本は軍事費の削減を続けてきたのだから後の祭りである。

 

しかし、それは「日本にできることは何もない」ということを意味しない。

日本にできることはある。

それは知ることだ。

米国を知り、中国を知り、来たるべき将来を予測することだ。

 

この話を考えていて私の脳裏に浮かんだのが「Death Note」という漫画のワンシーンだ。

これは「キラ」と呼ばれる大量殺人犯とそれを捕まえる側の壮大な頭脳バトルを描いた作品で、日本のみならず世界でも空前のヒット作となった。

キラを捕まえようとするのは、日本や世界の警察機構、そして「エル」「ニア」と呼ばれる世界を股にかける名探偵である。

この戦いの終盤において事実上キラとエル/ニアの一騎打ちとなり、警察機構は全く役に立たないばかりか、キラにもエル/ニアにも煙たがられる地味な存在となってしまう。

 

物語の終盤で、警察のとある刑事がそれでも何とかキラの尻尾を掴もうと、あの手この手で動き回るシーンが出てくるのだが、その時本来仲間であるはずの「ニア」という探偵から「邪魔をするな」と釘を刺されてしまう。

「キラ、ニア、ともに最終盤に向けて準備を進めている。私たち二人で決着をつけるしかない。あなた方警察はもう蚊帳の外なのです。それを自覚し邪魔だけはしないでください。」と告げられます。

その刑事は愕然とするのですが、その時にニアがこう言うのです。

「私に協力してくれるのなら、キラを見張っておいて欲しい。それは存在意義がないということではない。”あなた達が見ている”ということが意義があるのです。」と。

 

私は今の日本、米国、中国の関係はまさにこれと酷似していると思います。

Death Noteで言えば、

犯人のキラは中国。

探偵のニアは米国。

そして警察は日本です。

中国と米国は対決に向けて着々と準備を進めている。その間に挟まれた日本にできることは何もないのだから、おとなしくしておいて欲しい。

ただ、ちゃんと中国と米国がやっていることを見て、知っておいて欲しい。そして、来たるべき時にはしっかりと正しい判断を下して欲しい。

米国も中国もそう思っているのではないでしょうか。

そしてその判断を下すべき時は、もうすぐそこにまで迫っています。

 

もはや米中対立を日本が”どうこう”なんてことはできるはずもない。

だったら、確実にできる「知る」ということを行うことは、何よりも必要なことではないでしょうか。

本書はそのための基礎を身につけるための重要な本になりえると私は思います。

 

 

という訳で、今回ご紹介したのは橋爪大三郎 著「中国vsアメリカー宿命の対決と日本の選択」でした。

長文を最後までお読み頂きありがとうございましたm(_ _)m 

 

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