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"ニュースを絶つ力"が人生を豊かにする。ロルフ・ドベリ著「News Diet」

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今回ご紹介するのは「Think Clearly」「Think Smart」などの著作でベストセラーとなったロフル・ドベリ著「News Diet」(ニュース・ダイエット) 。

シリーズ36万部突破の最新作ということで、すでに世間で話題になっている著書。スイスの知の巨人が提言する「ニュースフリー生活」のススメである。

ちなみにタイトルは「ニュース・ダイエット」。ダイエットの方法を解説する「ダイエット・ニュース」ではないので、そこはご注意を(笑)。

News Diet

News Diet

 

 

著者紹介

著者であるロルフ・ドベリは作家であり、実業家。1966年、スイス生まれ。

スイス航空の子会社数社でCEO、CFOを歴任。

科学、芸術、経済における指導的立場にある人々のためのコミュニティー「WORLD.MINDS (ワールド・マインズ)」を創設し、理事を務める。

35歳から執筆活動をはじめ、世界の多数の国での雑誌や新聞に寄稿。著書は40以上の言語に翻訳出版され、累計発行部数は300万部を超えるベストセラー作家。

著書に

「Think Clearly 最新学術研究から導いた、よりよい人生を送るための思考方法」

「Think Smart 間違った思い込みを避けて、賢く生き抜くための思考法」

などがある。

作家であり、実業家でもあるという風変わりな肩書を持つ著者だが、彼の著作の面白い点は人生という困難な道をよりよく生きるための処方箋を、とても簡潔な言葉でわかりやすく表現してくれるところだ。

しかも、そこには恩着せがましい押し付けや高圧的な態度は微塵もない。

まるで著者と会話する私たち読者との間に”コロンッ”と石ころでも転がすように気軽に指し示してくれる。

「僕は君の人生をよくするアイデアを提示した。それをどう扱おうが君の自由だよ。」と言って、微笑みかけているかのような優しさを感じる独特の文体が魅力だ。

News Dietとはどんな本か?

さて、そんな著者が今回著した「News Diet」とはどんな本なのか。その内容はこの本の副題に凝縮されている。

「Stop Reading the News. A Manifesto for a Happier, Calmer and Wiser Life.」だ。

日本語で言えば「ニュースを読むのはもう止めよう。より幸せで、穏やかで、そして賢い人生を送るための提案」といったところだろうか。

そう、この本はニュースの過剰摂取をやめることで、より良い人生を送るためのアイデアを提案する内容なのだ。

ニュースはあなたの人生にとって重要ではない

私たちの生活はニュースと共に始まり、ニュースと共に終わると言っても過言ではない。

特にスマホ生活が当たり前となった現代ではなおさらだ。

朝起きて朝食を食べながらスマホでニュースをチェックし、夜寝る前も今日の出来事をスマホでチェックする。そんな生活を送っている人がいかに多いだろうか。

ニュースは確かに世界で起こったさまざまな出来事を教えてくれる。一つでも多くのニュースを知っている人は、知らない人よりも優れた人のように見える。

ビジネスマンであればニュースを一つでも多く知っていることが、成功につながるとさえ思うだろう。

だが、本当にそうだろうか?

 

著者は言う。

「もしニュースを消費することが本当に出世につながるなら、所得ピラミッドのトップはニュースジャーナリストたちで占められているはずだ。だが現実はそうではない。その逆だ。」

と。

ニュースを多く知っていることは必ずしも成功に必要だとは限らない。ましてや人を幸せにすることはないのだ。むしろニュースを追いかけることは私たちの生活に悪い影響を与えると著者は言っている。

制限するべきニュースの”消費”

ニュースが与える悪影響を紹介する前に、この本でたびたび出てくる「ニュースを消費する」という言葉の意味について少し説明しておきたい。

これはとても重要なキーワードだ。

 

著者は大量のニュースを消費することの弊害を紹介しているが、この”消費”とはニュースを知るためにニュースを追いかけるような行為のことを指している。

つまり、アルコール中毒者が瓶が空になっただけで不安になり、飲みたいわけでもないのに空になった瓶にアルコールを注ぐような行為を指している。

アルコールを飲むこと自体が悪いのではない。アルコールを過剰に摂取すること、そしてアルコールが無いということ自体にすら不安を覚えることが問題なのだ。

 

実際、著者も「全くニュースに接するな」とまでは主張していない。

世界で起きている出来事に関心を払い、思考を巡らせ、現実的な行動をとることは、むしろ積極的に行うべきである。

著者が薦めるニュースのダイエットとは、アルコール中毒者がアルコールを浴びるような”ニュースの過剰消費”からの決別のことだ。

ニュースが与える悪影響

この本ではニュースを大量に”消費”することの悪影響がいくつも紹介されている。

その中でも面白いのが

・集中力の低下

・偏向性の強化

という点だ。

 

ニュースが与える悪影響① 集中力の低下

物事を考えるには集中力が必要であることは言うまでもない。

しかし、ニュースの消費はこの集中力を低下させる。

なぜなら、集中するためには誰にも邪魔されない時間が必要だからだ。

これについてはアンデシュ・ハンセンの著作「スマホ脳」にも同様の指摘がある。

基本的に人間は一つのことしか集中して作業ができない。複数の作業を同時にこなしているように見えても実際には作業の間を行ったり来たりしているだけなのだ。

集中する対象を変えるだけなら、確かにコンマ一秒程度しかかからない。だが問題は、能がさっきまでの作業の方に残っていることだ。

脳には切り替え時間が必要で、さっきまでやっていた作業に残っている状態を専門用語で注意残余と呼ぶ。ほんの数秒メールに費やしただけでも、犠牲になるのは数秒以上だ。

集中する先を切り替えた後、再び元の作業に100%集中できるまでには何分も時間がかかるという。

(スマホ脳。P89) 

スマホ脳(新潮新書)

スマホ脳(新潮新書)

 

 したがって、ニュースにふれると集中力は必然的に情報の波に押し流されて消え失せてしまう。その結果、ニュースによって集中力が衰え、思考力が低下するのである。

 

ニュースが与える悪影響② 偏向性の強化

もうひとつの悪影響の一つが、思考の偏向性・・・つまり思い込みが強まることである。

一般的にはニュースを知れば多くの情報を得ることができるため、多面的な視野で物事が見られるようになると思われている。しかし、実際はその逆である。

本書では、オレゴン大学でポール・スロヴィックが行った「競馬予想」に関する面白い実験が紹介されている。

この実験は競馬予想者に与える馬についての情報を少しずつ増やしていき、それが自分の予想への”自信の強さ”にどう影響を与えるのかを調べたものだ。

実際にはその情報は”予想の的中率”にはなんの影響も与えなかったのだが、参加者の「自信」には大きな影響を与えた。

与えられた情報が多いほど、参加者たちの自信は強くなっていったのだ。

普通、何かを予想するには用心深さや疑いが必要だ。しかし、情報を得るごとに被験者は情報の洪水に洗い流され、「慎重な判断」が「絶対的な確信」に変異してしまった。

つまり、人は得られた情報が多いほど謙虚さや用心深さをなくし、自信過剰になっていくのである。

自信過剰は自分の意見への絶対信仰を生み、他者の意見への偏狭さを生む。そして、この他者への偏狭さは多面的な物事の見かたを衰えさせ、決断の質への低下につながるのである。

ニュースを見るよりもやるべきこと

では、ニュースを全て絶てば物事はすべてうまく行き、よりよい生活が約束されるのだろうか?

残念ながらそれも違う。

人は社会的な生き物であり、社会と分離して生きていくことはできない。

しかし、ニュースから距離を置くことと、社会と隔絶することは二者択一ではない。

社会の動きに関心を持つことは、社会に生きる私たちにとって重要であることは間違いない。

ただ、関心を持つというのはニュースを消費することではなく、本来「行動を起こすこと」である、と著者は言う。

「メディアの消費を通して世界の出来事に関心を持つ」など、これ以上の自己欺瞞があるだろうか?

「関心を持つ」というのは、本来、何らかの行動を起こすことを意味するものだ。瓦礫の下からはいでてくる地震の被災者の様子を夜のニュースで眺めながら憐れみに浸る行為は、なんの助けにもならないだけでなく、嫌悪すら催させる。

地震の被災者や戦争難民や飢えに苦しむ人達の運命が本当に気にかかるなら、お金を寄付しよう。注意を向けたり、労働力を提供したり、祈ったりすることよりも、お金の方がずっと役に立つ。(本書P182)

私は本書の「News Diet」という考え方において最も大事な指摘は、この点にあるのではないかと思う。

 

大切なことは日々飛び込んでくるニュースを消費することではない。

本当に社会に関心を持っているのであれば、ニュースを消費するのではなく行動を起こさなくてはならない。

そして、その具体的な行動とは、個人の能力や資質、あるいは環境によって異なる。

そうであるならば、私たちが社会に関心を持つために本当に必要なのは自分の能力や資質、いわば”自分にできること” (著者はこの範囲を”能力の輪”と呼ぶ) を見極め、何をすべきかを自分自身に深く問い直すことではないだろうか。

 

日々私たちの生活を押し流す数多くのニュース。

ニュースを知ることが社会人としての常識だという程に当たり前になっているニュースの”消費”。

しかし、それは本当に私たちを幸せにし、社会を幸せにするのだろうか。

私たちがよりよく生きるためのニュースとの付き合い方を考え直す上で、非常に参考になる書籍である。

 

という訳で、今回ご紹介した本はこちら。

ロフル・ドベリ著「News Diet」でした。

今回も長文を最後までお読み頂きありがとうございましたm(_ _)m 

News Diet

News Diet

 

 

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