なぜオリンピックを強行開催するのか。政府の基本方針から読み解く理由。
「政治家は一体何のために仕事をしているのだろうか。」
思わずそう呟かざるを得ないほど、現代は政治家と国民の分断が拡大している。
東京オリンピックの強行開催はその象徴的出来事だ。
朝日新聞が5月に発表した世論調査によると、「中止する」と答えた人が43%、「再び延期する」と答えた人は40%に上ったようだ。
多くの国民がオリンピック開催に反対する理由は極めてシンプル。海外の選手や関係者によって感染が拡大することを恐れているからだ。
政府あるいは国家の役割とは本来国民生活の安定と安全を確保することのはず。それにも関わらずなぜ政府はこれを強行しようとするのだろうか。
オリンピックの目的は何か
政府が東京オリンピックを強行する理由を読み解くのに参考になる資料がある。
首相官邸のHPに掲載されている「2020 年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会の 準備及び運営に関する施策の推進を図るための基本方針」だ。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tokyo2020_suishin_honbu/kaigi/dai2/siryou1-2.pdf
これによれば東京オリンピックの開催意義を政府がどのように考えているかが分かる。
例えば
・自信を失いかけてきた日本を再興し、成熟社会における先進的な取組を世界に示す契機
・多くの先進国に共通する課題である高齢化社会、環境・エネルギー問題への対応に当たり、 日本の強みである技術、文化をいかしながら、世界の先頭に立って解決する姿を 世界に示し、大会を世界と日本が新しく生まれ変わる大きな弾みとする。
・文化プログラム等を活用した日本文化の魅力の発信、スポーツを 通じた国際貢献、健康長寿、ユニバーサルデザインによる共生社会、生涯現役社 会の構築に向け、成熟社会にふさわしい次世代に誇れる遺産(レガシー)を創り 出す。
と言った具合だ。
(一応、11ページある文書の10ページ目に「スポーツ基本法が目指すスポーツ立国の実現」という項目が一つだけある)
ここから読み取れる東京オリンピックの目的とは
「日本文化ビジネスの拡大」
「観光業促進」
「科学技術力アピールによる諸外国による投資の拡大」
といった、いわゆるビジネス的な金儲けであるということだ。
いわゆる一般的な国民が考えているような、国際平和や海外との交流といったスポーツの祭典として意義は全く考慮されていないのだ。
"オリンピック開催"という正義
オリンピックを推進する政治家たちは、たとえ世論を無視した強行開催であってもオリンピックを開催すればビジネス的には成功すると信じている。
そして、儲かりさえすれば今は文句を言っている国民たちも「やっぱりオリンピックをやって良かった」と手のひらを返すに違いないと高をくくっている。
だから民意をどうであろうと強行開催してしまえば良い。それが日本の未来のためになる。
言うなれば、彼らは”自分が信じる正義”に基づいて行動しているのだ。
彼らの正義が正しいのかどうかはここでは問うつもりはない。ただ、政治家として行政に携わる者たちには、たとえ民意を無視してでも自分たちが正義として信じる行動を国民に強制することができる"政治力"があること。
そしてそれは"民意によって選ばれた"という法的な正当性が付与されているということを、私たちは目の当たりにしている。
私たちはこれまで日本は法治国家であると信じてきた。そして法を通して私たち国民は主権を行使しているのだと信じてきた。それこそが近代国家のあるべき姿であると。
だが、本当にそうだろうか?
今回のオリンピックをめぐる騒動は、「オリンピックを開催するべきかどうか」という狭量な枠組みで収めるべき議論ではないのではないか。
私たちがいま目の当たりにしているのは、法による統治という理念の限界という、近代の政治哲学が静かに、しかし確実に孕み続けてきた問題なのではないだろうか。
だとすれば、今こそ私たちは近代という時代について考え直さなくてはならない大きな問題を突きつけられているのではないだろうか。
今回も長文を最後までお読みいただきありがとうございましたm(_ _)m