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鈴木宣弘「農業消滅」。日本を襲う飢餓までのカウントダウン。

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現代は飽食の時代だと言われるが、その一方で日本は食料自給率は世界でも低い。

その自給率は実に38%。

私達が普段口にしている食料のうち、4割未満しか国内の生産量で満たせていない計算だ。

食は体の素だと言われるが、その意味では私たちの身体の三分のニが海外の食に依存していることになる。

この状況で、何らかの事情で食料が輸入できなくなったり、海外農産物の価格が高騰したらどうなるだろうか。

食料価格の上昇で済めばまだ良い。将来的には、日本で飢餓が発生する危険性すらある。

多くの人が大袈裟な絵空事だと思うだろう。

だが、2035年にはそのような飢餓状態に陥る危険性があると警告するのが、東京大学大学院教授、鈴木宣弘氏の著作「農業消滅」だ。

 

 

野菜の自給率は4%にまで下落

この本の中で著者は、2035年には日本は飢餓に直面する可能性があると指摘している (農林水産省のデータに基づく著者の試算)。

たとえば、現状では80%の国産率を誇る野菜も、実はその元になる種の90%が海外依存である。それを考慮すると現在でも自給率は8%程度。2035年には4%程度まで下落するという。

また、同様に牛肉は4%、豚肉1%、鶏卵1%などなど・・・2035年の国内自給率は恐るべき低さが見込まれている。

 

食料自給率が低い理由

なぜこれほどまでに日本の食料自給率は低いのだろうか。

有り体に言えば「農業が儲からない」からである。

収益さえ上がれば農業従事者も増え、投資も呼び込める。

そうならないのは「農業が儲からない」からであり、儲からないのは「日本の農業の生産性が悪い」からだ。

だから、日本政府は”強い農業”、”稼げる農業”を掲げて、農家の生産性を上げ、国際的な競争力を高めよう!

これが世間一般に流通している通説であり、それに則って政府も農家を鼓舞している。

しかし、残念ながらここには根本的な誤解がある。

それは「そもそも農業の目的とは国民を飢えさせないことであり、お金を稼ぐことではない」ということだ。

 

日本の農家は”守られなさ過ぎている”

日本では農家が競争から守られ過ぎているという批判があるが、実はこれは全く的はずれだ。

農家の農業所得に占める国の補助金の割合は2016年の統計で日本が30%であるが、諸外国ではどうだろうか?

実は、スイスが100%、ドイツが70%、イギリスが91%、そしてフランスが95%となっている。

つまりEU主要国においては、農家の所得のなんと90%以上が国家による負担、いわゆる税金で賄われているのだ。

また、諸外国から食料を輸入する際の関税率も日本は高いと思われているが、これも昔の思い込みに過ぎない。

OECDのデータによれば、日本の農産物の関税率は平均で11.7%と低く、多くの農産物輸出国の1/2から1/4程度である。(本書P135 )

世間の思い込みとは裏腹に、日本の農家は世界でも類を見ないほど”保護されていない”のが実情だ。

なぜ食糧危機が注目されないのか?

だが、このような日本の農業の実情を知る人はほとんどいない。

大きな理由の一つは「目の前に大量の食料があるから」だろう。

コンビニや飲食店でも大量の食べ残しが廃棄されているのを目にすることはあるが、「食料が不足しているので料理が提供できない」などという話は聞いたことがない。

また、ニュースなどで目にするのも「食料の大量廃棄」という問題がほとんどであり、日本が飢餓に直面する可能性があるなどという記事はほぼ流通していない。

それは日本の自給率の低さを補うだけの食料輸入を行っているからである。

 

冒頭でも書いたように、日本の食料自給率は38%。つまり、私達が普段口にしている食料のうち、6割以上は海外からの輸入に依存している。

もしこのような状況で、何らかの事情で食料が輸入できなくなったり、海外農産物の価格が高騰したらどうなるだろうか。

残念ながらこれは絵空事ではない。

今回のコロナ禍で明らかになったように、日本や海外の物流網が寸断されるような事態がいつ起こっても不思議ではない。

また、昨今の異常気象による影響も重要だ。たとえば中国では干ばつや害虫の大量発生により食料不足が深刻化している。中国政府は食料輸入を増やして不足分を補う方向だが、その場合、日本が輸入する食物が減少するという予測がある。

経済規模では世界第二位の大国となった中国と”二位と歴然とした差がある”第三位の日本。

もし食料確保の競争となった場合、どちらに軍配が上がるかは火を見るより明らかだろう。

飢餓を防ぐためにやるべきこととは?

早ければ2035年までに訪れる日本の食糧危機。それを防ぐにはどうすれば良いのだろうか?

それはこの本の副題「農政の失敗がまねく国家存亡の危機」が示唆している。

国家をあずかる政府にとってもっとも重要な仕事は、国民を飢えさせないことだ。

そのためには食料自給率の低さは喫緊の課題である。

諸外国はそれが分かっているからこそ、農家に多額の補助金を支払って彼らの生活を支えている。一方の日本は”稼げる農業”などと言って、農家への補助金を切り詰めひたすら自助努力を促進しようとする。

現在の日本の食料自給率の低さとは、このような国家の農業政策の失敗の当然の結果なのだ。

「国民を飢えさせない。」

この当たり前の国家の最重要目的を遂行し、国民を守るためには、それに十分な生産力を回復できるまで国がちゃんと農家を保護すること。これしかない。

稼げる農業などという絵空事は、その次の話なのだという当たり前の認識を取り戻すことが何より重要ではないだろうか。

 

という訳で今回ご紹介した本はこちら。

鈴木宣弘氏の著作「農業消滅」でした。

今回も長文を最後までお読みいただきありがとうございましたm(_ _)m

 

 

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