世界を救う読書

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ヨーロッパの覇権を確立した3つの革命 玉木俊明 著 『16世紀「世界史」のはじまり』

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「先進国と言えばどこの国か?」と聞いて思いつく国と言えばどこだろうか?

アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス・・・中国ももはや先進国の一つだろうか。

先進国にはいろいろな定義があるけれども、欧州、特に西ヨーロッパの国々といえばどこも先進国の一つだと言っても良いだろう。それほど欧州と言えば世界を牽引する先進国の集まりだというイメージが強い。

だが、その欧州が数百年前までは後進国であったと聞いたら信じられるだろうか?

実は16世紀なかばくらいまでは先進国と言えば、中国や中東であり欧州はむしろ後進国だったのだ。たとえば中国は、紙、火薬、羅針盤、陶磁器の世界最大の産出国だったし、イランやインドと言った中東地域も綿花、綿織物などの産地であり、欧州は輸入する側だった。シルクロード (絹の道) という言葉を聞いたことがある人も多いだろう。

このように、中国や中東が優れた工芸品や産出品を持っていたのに対し、欧州にはアジアに輸出できるような物はほとんどなく、文化的にも後進国だった。

その後進国の集まりであるヨーロッパが、なぜ現在のような”先進国”の立場として、権威を振るうようになったのか? 

その原因をさかのぼり、欧州の力の源泉の秘密を探るのが今回ご紹介するこちらの本

玉木俊明著「16世紀『世界史』のはじまり」

だ。

 

欧州を変革した3つの革命

意外かもしれないが、現在の私たちが恩恵を預かっている近代科学は欧州で一から発展したわけではない。

たしかに近代科学の端緒となった科学は、アリストテレスに代表される古代ギリシャの哲学者から生まれている。しかし、それらは古代ギリシャの滅亡とともにイスラム社会に伝わり、そこで独自の発展を遂げた。数学、自然科学、天文学、地理学などのさまざまな分野において、科学的知見はイスラムで発展したものだ。

また、中国が果たした役割も忘れてはならない。製紙法、羅針盤、火器の発明など近代科学の元となった発明は中国に起源を持つものが多い。

では、なぜ欧州がそれらの地域に取って代わることができたのだろうか?

著者によれば、それは大きく次の3つの革命が影響している。

すなわち

・宗教革命

軍事革命

・科学革命

だ。

欧州を変えた3つの革命

欧州を変えたこの3つの革命について簡単に見てみよう。

 

まず宗教革命。この名は、「ルター」や「プロテスタント」という言葉とともに広く知られている。

かつてはキリスト教と言えばカトリック教会のことだったが、どの組織にでもありがちな汚職や腐敗が進行したため、ルターやカルヴァンに代表される人物がカトリック系に「プロテスト (=抗議)」し、組織を改めようとしたのが始まりだ。

次に科学革命とは、コペルニクスガリレオ・ガリレイニュートンらによって新しい物理学上の発見がなされ、科学研究の方法に大きな変革が生まれたこと。自然や宇宙を数学的に理解し、解明することができるようになったことで、人間の生活様式を大きく変えることになった。ここで生まれた科学的知見により、18世紀に欧州で産業革命が起こったことも重要だ。

そして、最後に軍事革命。それまで馬に乗って剣を交える騎馬戦が主流だった戦争に、火縄銃や大砲などが用いられるようになったことで、それを使用する歩兵が兵力の中心になったこと。そして、それを活用するために兵隊が大規模化し、大量の人的・物的資源が動員されるようになったことを言う。

著者によれば、これらの革命が16世紀に集中して発生したことが、後進国だった欧州が世界的な影響力を持つようになった原因だという。

では、これらの3つがどのように欧州の覇権獲得に影響を与えたのだろうか?

 3つの革命をつないだ「航海技術」

欧州覇権への影響を紐解く鍵となるのが航海技術。欧州を覇権を作り出したのは他でもない、宗教革命、軍事革命、科学革命という3つの革命を航海によって繋ぎ合わせたことだった。

 

最初に述べた通り、16世紀までは欧州は中国や中東に比べて後進国であり、それらの地域に輸出できるような特産品は何もなかった。しかし、科学革命が生んだ自然に対する新たな知見や軍事革命による軍事技術を得たことで、それらを他国と交易するための輸出品として育てることができた。

とはいえ、輸出品があるだけでは遠い諸外国と交易をすることはできない。交易とは距離的に隔たりのある地域同士が、物やサービスを融通し合うことによって成り立つ。したがって、いくら科学的知見という優秀な特産品があったとしても、それを運ぶことができなくては交易は成り立たない。

この欧州による外国との交易を物理的に可能にしたのが、科学革命によって進歩した天文学、物理学をベースにした航海技術だった。1492年にコロンブスが新世界を「発見」し、1498年にはヴァスコ・ダ・ガマがインド洋に到達したことによって、欧州の国々は世界中に交易ネットワークを広げることが可能になった。

そして、欧州の国々が交易に使用した知見や技術とは、基本的に人の頭の中に蓄えられている。つまり、科学的知見という特産品を持った”人”が世界中を航海することで、欧州の”輸出”は活発になったのだ。このことは宗教改革と密接な関係を持っている。

なぜなら、カトリック教会は知識や技術というソフトパワーを持った教徒を世界に派遣することによって、カトリックの布教活動とグローバルな交易の両立を実現することが可能だったからだ。

すなわち、”航海術による交易”という点によって、宗教改革軍事革命、科学革命という3つの革命が欧州に巨大な繁栄をもたらしたのだ。ここにこそ、その後欧州の国々が世界の覇権を担っていく源泉がある。

 

 

まとめ

世界の覇権争いと言えば、一般的には「軍事力」による争いの結果であるように思われがちだ。

だが、本書で解説される欧州による覇権確立のあらましを知ると、実は軍事力が覇権のすべてではないことが分かる。欧州はたしかに強大な軍事力の下に世界を支配した。しかし、それと同時に科学的知識や交易システム、航海術といったソフトパワーの力によってその影響力を拡大していったと言える。

この視点は現在の覇権争いである米中戦争について考える上でも、私たち日本が世界での影響力を高めていく上でも非常に重要な示唆を与えてくれるのではないだろうか。

 

 

 

という訳で今回紹介したのはこちら。

玉木俊明 著 『16世紀「世界史」のはじまり』でした。

今回も長文を最後までお読み頂きありがとうございましたm(_ _)m

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